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介護職の基本「ボディメカニクス」徹底解説

介護士と利用者のためのボディメカニクス

今回は、初任者研修の授業でも習う「ボディメカニクス」についてお話いたします。
介護のお仕事をされている方なら、一度は聞いたことがある言葉ではないでしょうか。
ボディメカニクスを使った介助方法を知っておくと、利用者と介護職の双方に身体的な負担が少なく、安全・安心な介護を行うことができます。
介護以外の場面(看護や育児)でも活用することができますので、ボディメカニクスについて知り、お仕事や日常生活の中で活用してみて下さい。

江島 一孝 | 介護福祉士・実習指導者・介護支援専門員

江島一孝(介護福祉士)

この記事の監修者

介護福祉士、実習指導者、介護支援専門員として10年以上の経験を持ち、湘南国際アカデミーで介護職員初任者研修や実務者研修の講師、介護福祉士国家試験の対策テキスト執筆を担当。

ボディメカニクスとは何か?基本を知ろう

ボディメカニクスとは、「body mechanics」「mechanics=機械学」という、人間の身体を機械として考えたときの特徴を明らかにする学問のことです。

人間の体を効率的に動かすための仕組みを指し、骨や筋肉の構造を活かして力を効果的に分散させる技術です。
介護現場でボディメカニクスを活用することで、利用者の身体への負担を軽減し、介護者自身の腰痛や疲労を予防することができます。効率的な動作と安全な介助を実現し、利用者と介護者双方に安心・快適な環境を提供するための重要な知識であり技術(テクニック)です。

ボディメカニクスの定義と重要性

人間の正常な運動機能は、神経系・骨格系・関節系・筋系とのかかわりで成り立っており、このような諸系の相互関係を総称して「ボディメカニクス」といいます。

利用者と介護者双方の負担軽減

介護職の日々の業務の中で、移動・移乗や歩行などは、全てにおいてボディメカニクスが基盤となっています。
「介助は体に負担のかかるもの」「介助は力が要るもの」と考えている方もいらっしゃるかもしれませんが、介護士がボディメカニクスを活用することで、介助に必要な力を最小限に抑えることができるのです。

力任せにしなくても、無理なく体の向きを変えたり、体を起こしたり、体を移動させることができ、腰痛の予防にもなります。これらのボディメカニクスを取り入れた介護技術の習得が、介護士だけではなく介護サービス利用者への負担軽減につながる大事な技術です。

ボディメカニクスを活用した正しい介助姿勢

介護職に必要なボディメカニクスの基本原理

介護職に必要なボディメカニクスの基本原理について説明いたします。

支持基底面積を広げる

支持基底面積を広くとるほど身体は安定する
支持基底面積を広くとるために、介護職は両足を左右、前後広めに開きます。

利用者と介護職双方の重心を近づける

利用者・介護職それぞれの重心が近いほど移動がしやすくなります。また身体を密着させると余分な力がいりません。

大きな筋群を使い、水平移動を使う
身体全体の筋肉に力を配分し、腕だけなど一つの筋群だけに緊張を集中させないようにします。

利用者の身体を小さくまとめる
利用者の腕や足を組み、身体がベッドなどに摩擦する面積を少なくすることで力の分散を防ぐことができます。

介護士のためのボディメカニクス:腰と肩の関係(中央法規出版)
介護職員初任者研修テキスト2(中央法規出版より)

利用者を手前に引く
押すより引くほうが力を分散させず、少しの力ですみます。

スムーズな移乗を可能にするコツ

介護職の重心移動で利用者を動かす
背筋を伸ばし、膝の屈伸を使うと腰を痛めません。足先を重心移動する方向に向け、膝の屈伸で重心を移すと骨盤が安定し、スムーズで安定した移動になります。

身体をねじらず、肩と腰を水平に保つ
不自然に脊柱を曲げたりねじると姿勢が不安定となり、力が出せないと同時に腰痛の原因にもなります。

てこの原理を活用する

支点・力点・作用点のある状態で、小さい力が大きい力に変わる原理です。ベッドサイドに膝を押し付けるなど、膝や肘をてこの支点とすることで、効率的な動作が可能になります。
身体の動きは重心の移動を伴います。
そのため介助現場では、身体の動きに伴って移動する重心を意識して介助します。
人間の重心は、通常身長に対して床から約55%の高さに位置します。
(ただし、個人の体型や姿勢、物を持ったときの物体の重量などにより変化します。)

腰痛を予防する正しい姿勢

ある介助姿勢をとるときに最も重要なのは、姿勢の安定です。
姿勢が不安定になると腰や背中などに過剰な負担がかかり、腰痛などの原因となります。
支持基底面積が広く、重心の位置が低いほど姿勢は安定します。
同じ立位でも両足を開き、支持基底面積を広くし、膝を少し曲げて腰を低くするほうが安定性は高まります。
両手をあげたりすると重心が高くなり、不安定な姿勢になります。
また、てこの原理を使えば小さい力を大きな力に変えることができます。

ボディメカニクスは、効率よく自分の力を伝えるためのテクニックです。
知っているかどうかで、またボディメカニクスを取り入れているかどうかで体の負担が大きく変わってきます。
介護は介助される人と介助する人の協同作業。
介助される方に、これからどう動くかをしっかりと説明し、息を合わせて動くようにすることで、無駄な力を使わずにスムーズに介助をすることができます。

ボディメカニクスの実践方法の例

ボディメカニクスは、介護現場で利用者と介護者の双方に負担をかけない介助方法として非常に重要です。
ボディメカニクスを実際の介護現場の実践に取り入れていただきやすいように、ここまで上げてきたボディメカニクスの要点を各介助シーンや場面ごとに、具体的な活用方法を以下にまとめました。
以下の例を見てもイメージが湧かない場合や、社内研修に取り入れたい際には、お気軽にお問合せください。
【ボディメカニクスに関するご質問及び社内研修に関するお問い合わせ】
「湘南国際アカデミーお問い合わせ窓口」

起き上がりの介助

介護職員初任者研修:ボディメカニクスを活用した「起き上がりの介助」

状況

利用者がベッドで仰向けになっている状態から、上体を起こす場面。

活用方法

利用者の体を小さくまとめる
利用者の腕を胸の前で組み、足を軽く曲げることで、体をコンパクトにします。これにより、移動時の摩擦を軽減します。

てこの原理を活用
自分の膝をベッドに押し付けるように支点として使い、利用者の肩を手前に引く形で起こします。

腰と肩を水平に保つ
自分の腰を曲げず、膝を屈伸させて体重移動で起き上がりを補助します。

移乗の介助(ベッドから車いすへ)

介護職員初任者研修:ボディメカニクスを活用した「移乗の介助(ベッドから車いすへ)」

状況

利用者がベッドから車いすへ移る場面。

活用方法

重心を近づける
利用者に密着する形で、自分の重心を近づけます。これにより、余計な力がいりません。

水平移動を意識
ベッドと車いすの高さを近づけ、利用者の体を持ち上げるのではなくスライドさせる形で移動させます。

支持基底面積を広げる
両足を肩幅より広く開き、安定した姿勢で介助を行います。

車いすでの移動介助

介護職員初任者研修:ボディメカニクスを活用した「車いすでの移動介助」

状況

利用者を車いすに乗せて移動する場面。

活用方法

足の力で押す
腰を曲げず、背筋を伸ばし、足を使って車いすを押します。

段差でのてこの原理の活用
車いすの後ろに立ち、足元をてこの支点として車いすを後ろに傾け、ゆっくりと段差を越えます。

寝返りの介助

介護職員初任者研修:ボディメカニクスを活用した「寝返りの介助」

状況

利用者が長時間同じ体位でいるため、体位変換をする場面。

活用方法

重心移動を活用
利用者の肩と腰を支えながら、自分の体重移動を使って寝返りを補助します。必要以上に腰を曲げずに移動します。

身体を小さくまとめる
利用者の腕を胸の前で交差させ、脚(膝)を曲げた状態で動かすとスムーズです。

車いすからの立ち上がり介助

介護職員初任者研修:ボディメカニクスを活用した「車いすからの立ち上がり介助」

状況

右腕にマヒがある利用者が車いすからベッドに移動する場合の対応。

活用方法

重心を近づける
自分の膝を曲げ、利用者の体に密着して支える。

大きな筋群を使う
自分の足を使って支えながら、膝を伸ばす動きで利用者の脚力をサポートして立ち上がらせる。

体重移動を活用
利用者を力で引き上げるのではなく、利用者の力を利用して体重移動を促します。

物品の持ち運び

介護職員初任者研修:ボディメカニクスを活用した「動作時のよい姿勢・悪い姿勢」(中央法規出版)
介護職員初任者研修テキスト2(中央法規出版より)

状況

重い物を持ち上げたり運ぶ場面。

活用方法

膝を使う
腰を曲げずに膝を曲げ、重心を低くして物を持ち上げます。

身体をねじらない
持ち運ぶ際は、腰と肩を水平に保ち、足を動かして方向を変えます。

ボディメカニクスを取り入れる際の注意点

声掛けと同意の取得
利用者に次に行う動作を説明し、同意を得てから介助を開始します。

安全確認
利用者の状態や環境を確認し、安全を確保したうえで行動します。

適度な休息
介助後には介護者自身もストレッチなどを行い、疲労を軽減します。

介護現場においてボディメカニクスを活用するメリット

介護現場においてボディメカニクスを活用することで得られる利点は、利用者と介護者の双方にとって非常に大きなメリットがあります。以下に主な利点を具体的に挙げて説明します。

介護現場全体への利点

安全性の向上
正しいボディメカニクスを取り入れることで、転倒やケガのリスクを減らし、利用者と介護者の安全を確保します。
安全な介助が行えることで、施設や現場の信頼性が向上します。

質の高いケアの提供
利用者に適した動作を行うことで、身体的・精神的な負担を軽減し、より快適で丁寧なケアを提供できます。
利用者のQOL(生活の質)向上に寄与します。

チームワークの向上
介護スタッフ全員がボディメカニクスを理解し実践することで、共通の介護方法を用いたスムーズな連携が可能になります。
技術の統一によって、スタッフ間の信頼感も高まります。

まとめ - 安全で快適な介護のために

介護職にとって必要なボディメカニクスについて、少しでも取り入れたいと思っていただけたら幸いです。
介護のお仕事をしている人が健康で、元気であることは、介護される方の安心にも繋がります。
身近にいる介護職員が介護をする側にとっても、される側にとっても、安心・安全であるためにはボディメカニクスの活用法を学ぶことが重要です。

介護のお仕事をしていて、腰痛になってしまったという方も多くいらっしゃると思います。
実務者研修を修了された方でもぜひ、きちんとおさらいしてみてください。
そのような方は、腰痛をそれ以上悪化させないためにもボディメカニクスを理解して活用してみて下さいね。

ボディメカニクスについて知ると、介護の仕事は「体に負担がかかる」「力が要る」「腰痛になる」といった考え方ではなく、どのようにすれば負担を軽減できるかが分かるようになります。
介護のお仕事を長く続けるには、自身の体を守ることが重要です。介護のお仕事をされている方は、日々のお仕事にボディメカニクスを活用し、自身の体を守り大切にして下さい。

ちなみに…ボディメカニクスに関しては、過去に介護福祉士国家試験の問題にも出題されています。
平成25年度(26回)や平成26年度(27回)の過去問題も、チェックしてみて下さい。

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この記事を書いた人
元ユニットリーダー研修指導者。10年在籍した介護老人福祉施設の現場では、研修受け入れ担当者として、年間100名以上の研修生の指導にあたる。湘南国際アカデミーでは、介護職員初任者研修や実務者研修、介護福祉士国家試験受験対策講座の講師や介護福祉士受験対策テキストの執筆などを担当する傍ら、ケアする側もケアするという立場で、介護をする側のQOL向上のためのイベントや総合的なサポートを手掛けている。
その他、介護事業所や医療機関などにおいて当校の「事業所内スキルアップ研修」の企画・提案・実施など各事業所用にカスタマイズする研修をプロデュースし、人材確保・育成・定着に向けた一連のプログラムを手掛けている。
担当スタッフ
藤沢校・横須賀校・海老名校・相模大野校・横浜戸塚校・横浜馬車道関内校・小田原校・大和校・横浜二俣川校
【所持資格】
介護福祉士・介護福祉士実習指導者・介護支援専門員・福祉用具専門相談員
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