経管栄養とは、口からの食事が困難な方に対し、胃や腸に直接栄養剤を注入する医療的ケアです。高齢化社会や在宅療養の増加に伴い、介護現場でも経管栄養の対応が求められる機会が増えています。
このケアは医療行為に該当するため、介護職員が実施するには「喀痰吸引等研修」など所定の研修を修了し、法的な条件を満たす必要があります。
本記事では、経管栄養の基本から、研修制度、実施時の注意点、安全管理のポイントまでを網羅的に解説します。利用者のQOL(生活の質)を支えるために、介護職としてどのような知識と技術が求められるのかを丁寧にお伝えします。
経管栄養が介護現場で求められる理由
経管栄養は、経口での栄養摂取が困難な方に対して、安全かつ継続的な栄養供給を可能にする重要な手段の1つです。とくに施設介護や在宅医療の現場では、医療依存度の高い利用者の支援に欠かせないケアとなっています。
栄養管理は体力の維持や褥瘡予防、感染リスクの低減に直結するため、正確な知識と実践力が求められます。一方で、経管栄養には誤嚥・感染などのリスクが伴うため、介護職員が正しく理解し、法的に定められた研修を受けた上で行うことが必須とされています。
こうした背景から、経管栄養を安全に提供できる体制の整備と、職員のスキルアップは、今後ますます重要性を増すテーマといえるでしょう。
経管栄養の主な種類と特徴
経鼻経管栄養(NGチューブ)
経鼻経管栄養は、鼻からチューブを挿入して胃や腸へ栄養を注入する方法です。比較的簡単に導入・抜去ができるため、短期間から長期的に栄養管理に用いられます。
主に一時的な摂食困難がある場合に適応されますが、鼻腔への違和感による抜去自己や炎症などの課題もあります。早期回復が見込まれるケースでは、胃ろうよりも身体的負担が少ないとされています。
胃ろう(PEG)
胃ろうは、胃部上に小さな穴を開けて直接胃に栄養を注入する方法で、長期間の栄養管理に適しています。PEG(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy)とも呼ばれ、医師による造設が必要です。
経鼻よりも利用者の負担が少なく、見た目の違和感も少ないため、安定した栄養供給が可能です。ただし、瘻孔(ろうこう)周囲の清潔保持や感染対策など、日常のケアが重要となります。
腸ろう(PEG-Jなど)
腸ろうは、胃ではなく小腸や空腸に直接チューブを挿入して栄養を注入する方法です。誤嚥リスクが高い方や胃の機能に問題がある方に適しており、より安全に栄養を届けることが可能です。
導入には医師との連携が必須で、注入速度や栄養剤の管理にも注意が必要です。腸ろうを扱う場合は、医療職との密な連携と適切な手技の習得が不可欠です。
経管栄養の安全な実施と注意すべきリスク
基本的な注意点と手順管理
経管栄養は医療的ケアに分類されるため、手順ミスや情報の行き違いが重大事故につながる可能性があります。事前に施設のマニュアルを確認し、手順を守ったうえで実施することが重要です。
本人確認、マーキング、体位の保持、使用器具の清潔操作など、安全管理の基本を徹底することで、誤嚥や感染のリスクを最小限に抑えられます。
利用者の体調や表情の変化にも注意を払い、異常を察知した際には速やかに医療職へ報告・連携を行うことが求められます。
誤嚥リスクとその防止策
栄養が誤って気管に入る誤嚥は、肺炎や窒息など重大な合併症の原因となります。これを防ぐためには、体位管理が重要です。
注入時は上半身を30度以上起こす、または側臥位をとるなど、個々の状態に合わせた姿勢を保持しましょう。注入速度にも注意し、利用者の表情・呼吸を観察しながら慎重に進めることが安全確保につながります。
感染予防と衛生管理の基本
チューブや器具の取り扱いを誤ると、瘻孔周囲や消化管内部への感染リスクが高まります。特に胃ろう・腸ろうでは、創部の清潔保持が欠かせません。
使用前後の手指消毒、器具の洗浄と適切な保管、使い捨て手袋の活用など、基本的な感染対策を徹底しましょう。異変を感じた場合は無理に進めず、速やかに看護師・医師に報告することが大切です。
経管栄養を介護職が実施するための条件とは
法改正により可能となった医療的ケア
2012年の制度改正により、特定の研修を修了した介護職員は、経管栄養や喀痰吸引といった医療的ケアを実施できるようになりました。これは、医療ニーズの高い高齢者への対応力を高めるために設けられた制度です。
ただし、実施には「喀痰吸引等研修」の修了と、施設側の体制(指示書や看護師との連携体制など)が整っていることが前提となります。
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喀痰吸引等研修とは?目的と必要性
この研修は、介護職員が一定の医療行為を行うために、法律で義務づけられている研修制度です。対象となる行為には、口腔・鼻腔内の吸引、気管カニューレ内の吸引、胃ろう・経鼻経管栄養の注入などが含まれます。
高齢化に伴う在宅医療の拡大により、介護職員が一部の医療的ケアを担う重要性は増しており、研修によって安全な実施方法やリスク対応を体系的に学ぶことが求められています。
喀痰吸引等研修に関しての詳細は、以下のページをご覧ください
研修の流れと取得後の活用
喀痰吸引等研修は、座学と実技、さらに実地研修で構成されています。講義では法律や倫理、安全管理の基礎を学び、演習では実際の器具を用いて実践的な手技を習得します。
研修修了後には「認定証」が交付され、実務において経管栄養等の実施が可能となります。認定後も、定期的な振り返りや実地でのスキル維持が求められます。
喀痰吸引等研修の種類と内容の違い
3つの研修区分とは
喀痰吸引等研修には、対応する利用者や医療行為の範囲に応じて3つの種類があります:
• 第1号研修:複数の利用者に対して、経管栄養や喀痰吸引が可能
• 第2号研修:特定の医療行為のみ対象(例:経管栄養のみ)
• 第3号研修:特定の1名の利用者に対してのみ実施可能
施設の方針や対象となる利用者に応じて、適切な研修を選択することが重要です。
第1号研修の特徴
最も汎用性が高く、複数利用者への対応を想定した研修です。研修内容は、口腔・鼻腔・気管カニューレ内吸引、胃ろう・経鼻経管栄養など、医療的ケアの基本技術を広くカバーしています。
実地研修も含まれており、研修修了後は施設全体の対応力が向上します。
第2号・第3号研修の使い分け
第2号研修は、行える行為を限定した研修です。必要なケアだけを学ぶことで、短時間・低コストで研修を完了できる利点があります。
第3号研修は、特定の個人に対してのみ実施可能なもので、在宅介護や小規模施設で活用されることが多いです。どちらも対象が明確なため、無駄のない受講が可能です。
研修にかかる費用と補助制度
費用の目安と助成制度
研修費用は数万円〜十数万円程度と幅があります。第1号研修は内容が広いため高めの傾向がありますが、自治体や事業所が費用を一部補助してくれる場合もあります。
また、介護職のスキル向上を目的とした助成金制度を利用できることもあるため、申し込み前に確認しておくと良いでしょう。
受講機関の選び方と注意点
研修は都道府県指定の研修機関や民間の養成校で受講できます。選ぶ際には、講師の質、実技の充実度、サポート体制などをチェックしましょう。
特に実地研修の受け入れ先や研修後のフォロー(再講習・相談対応)も確認しておくと安心です。受講にあたっては職場とのスケジュール調整も必要ですので、早めに計画を立てることが成功のカギになります。ケアを行う場合は新たに研修を受講し直す必要があります。制度の仕組みを十分理解しながら、最適な研修を選択しましょう。
経管栄養の基本手順と管理のポイント
実施手順の流れ
手順1:準備と声かけ 器具・栄養剤の準備後、利用者に説明して安心感を与えます。体位は上半身を30度以上起こすなど、誤嚥や逆流を防げる姿勢を保ちます。
手順2:チューブ接続と注入時の観察 本人と栄養剤の確認、チューブの状態や瘻孔部の確認後、注入を開始。表情や呼吸の変化に注意し、異常があれば中断・報告を徹底します。注入速度・温度にも配慮しましょう。
手順3:片付けと記録 器具の洗浄・消毒を済ませたら、利用者の姿勢を維持しながら体調を確認します。注入量や反応などを記録し、チームで情報を共有します。
使用器具と衛生管理
主な器具と取り扱い
経管栄養で使用される器具には、栄養点滴チューブ、注入用シリンジ、栄養剤などがあります。使用物品はケア前後に洗浄・消毒を徹底します。
栄養剤は開封後の使用期限・保管温度に注意し、衛生状態を保つことが重要です。器具や接続部の管理状態が感染リスクを左右するため、使用後は必ず点検・記録を行いましょう。
経管栄養の導入メリットと課題
メリット:QOL向上と介護の幅の拡大
経管栄養の導入で、栄養不足による体力低下や褥瘡のリスクが軽減されます。安定した栄養供給は、利用者の活動性を維持し、QOLの向上につながります。
また、介護職が経管栄養を実施できることで、施設全体の対応力が向上し、チーム医療の推進にも寄与します。
デメリット:リスクと負担の増加
一方で、誤嚥や自己抜去などのリスク管理、記録や観察の徹底など、介護職員の責任は重くなります。研修修了者の確保や業務分担の見直しも必要となるため、体制づくりが欠かせません。
それでも、適切な教育と継続的な研修によってリスクは最小限に抑えられ、安全なケアの実現が可能です。
喀痰吸引等研修にかかる費用と補助制度
受講費用は研修の種類や受講機関で異なりますが、各種公的支援も検討が可能です。
喀痰吸引等研修を受講するには一定の費用が必要ですが、その金額は研修種類と実施機関によって幅があります。受講者負担を軽減するために、自治体や事業所が一部補助を行っている場合もあり、事前に情報収集すると良いでしょう。
特に在職者を対象とした助成や、施設単位での補助制度があるケースも少なくありません。経管栄養や喀痰吸引まで行える技術を身につけることで、キャリアアップや給与面での評価につながる場合もあるため、長期的視点で検討する価値があります。
FAQ|経管栄養と研修に関するよくある質問
- Q1.経管栄養は介護職でも行えますか?
- A
はい。ただし「喀痰吸引等研修」の修了と、施設側の体制(医師の指示書、看護師との連携など)が整っている必要があります。
- Q2.研修はどれくらいの期間で受けられますか?
- A
座学・実技・実地研修を含め、一般的には1〜2か月程度かかります。施設の支援や勤務調整があるとよりスムーズです。
- Q3.経管栄養と喀痰吸引は同時に学ぶべきですか?
- A
多くの施設では同時に必要とされるケースが多いため、両方を学べる「第1号研修」の受講が推奨されます。
- Q4.湘南国際アカデミーでは研修を受けられますか?
- A
- Q5.経管栄養の実務で一番気をつけることは?
- A
誤嚥と本人確認です。体位の調整、利用者の表情や呼吸の観察、医師の指示を基に栄養剤と本人確認を常に確認することが大切です。
まとめ|安全に経管栄養を行うために
経管栄養は、食事が困難な方の命と生活の質を支える大切なケアですが、同時に医療的判断と確かな手技が求められます。介護職が実施するには、「喀痰吸引等研修」の修了と、施設の体制整備が必要不可欠です。
法的に定められた研修を通じて安全管理やリスク対応を学び、利用者一人ひとりに合ったケアを提供できる力を養うことは、現場での信頼と専門性の向上につながります。今後ますます増えるであろう医療的ケアのニーズに応えるためにも、制度と技術の両面からの準備が重要です。
湘南国際アカデミーでは、介護職員に対して医療的ケアの教育をする教職員の人材育成から力を入れるために「医療的ケア教員講習会」も実施しています。全てのケアの演習過程ででも高品質の機材や人形を使用し、実際のケアをイメージした演習を行うことができます。また、教育の担い手を増やすことで、医療的ケアの質を施設全体で高めていくことを可能にしております。
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