
中澤みほ(国家資格キャリアコンサルタント)
この記事の監修者
大学でキャリアカウンセリングを学び、最年少でキャリアコンサルタント資格を取得。公共職業訓練校や大学の就職支援を担当し、企業向け研修のプロデュースも手掛ける。湘南国際アカデミーでは、介護資格教育や就職支援を通じ「介護する側のQOL向上」を目指し、受講生や企業から信頼を得ている。
実務者研修は介護現場で必要な専門知識やスキルを身に付ける研修で、受講費用が10万円以上かかることもあります。個人で全額を負担すると出費が大きくなるため、会社が費用を一部または全額負担してくれる制度があれば、金銭面の不安を大幅に軽減可能です。これにより、従業員は資格取得やキャリアアップに集中でき、企業側も専門性の高い人材を育成するメリットを得られます。
本記事では、会社負担による実務者研修の受講方法やメリット・デメリット、さらに手続き時の注意点を詳しく解説します。補助金や貸付金制度など、さまざまな選択肢もあるため、最後までご覧いただき、自分に合った方法を見つけてください。
実務者研修費用を会社負担にするメリット
会社が実務者研修の費用を負担すると、企業と従業員の双方に大きな利点があります。受講料だけでなくテキスト代や交通費、休業時の給与減なども発生しやすいため、個人負担が重くなりがちです。
そこで企業が費用を一部または全額サポートすれば、従業員は資格取得に集中しやすくなり、結果として業務の質や企業全体のサービス品質向上にもつながります。さらにサポート体制の充実は企業の魅力を高め、人材流出防止にも寄与するため、介護業界の人材不足対策として多くの企業が資格取得支援制度を導入しています。
こうした会社負担制度は、企業と従業員の利害が一致する施策として注目されています。
企業側のメリット
企業側の最大のメリットは、人材育成が進めやすくなることです。実務者研修を修了した従業員は、より専門性の高いケアや迅速な対応が可能になり、顧客満足度やサービス品質の向上につながります。さらに、費用を負担する姿勢を打ち出すことで企業の信頼度が高まり、採用活動や取引先との関係構築でも好印象を得られるでしょう。
従業員側のメリット
従業員にとっては、高額になりがちな研修費用を抑えられる点が大きなメリットです。費用面のハードルが下がれば、キャリアアップに必要な資格を取得しやすくなり、仕事へのモチベーションも高まります。結果的に昇給や役職手当など待遇の改善につながりやすく、自身の将来プランが明確になるという利点もあります。
会社負担の対象となる実務者研修の費用とその内訳
実務者研修の費用には受講料だけでなく、テキスト代や交通費などが含まれるため想定より高額になることがあります。相場は10万~20万円ほどですが、保有資格(例:初任者研修やホームヘルパー2級)やスクールによって変動し、教材費などの追加費用も発生する場合があります。会社がどこまで負担してくれるかを事前に把握しておけば、受講後の出費に戸惑わずに済むでしょう。
また、企業が独自に運営するスクールを利用できる場合は、一般の相場より安く受講できたり、ほぼ全額を会社側が負担している例もあります。湘南国際アカデミーのように、カリキュラムを独自開発した教育機関と連携する企業も増えており、負担割合や費用が明確化しやすい点が特徴です。
会社負担費用の平均相場
会社負担の平均相場としては、全額負担や半額負担を採用している企業が多い傾向にあります。受講料のみが対象で、テキスト代や交通費は自己負担とする企業もあれば、関連費用をすべて含めて負担する企業も存在します。平均的には10万円前後を企業がサポートするケースが多いといわれています。
費用に含まれる内容
企業によっては、実務者研修の受講料だけでなく教材費、場合によっては交通費も負担範囲に含まれることがあります。実務者研修には通信講座と通学が組み合わさったカリキュラムも多いため、どの項目が負担対象になるのかは必ず事前に確認しましょう。細かな部分までチェックしておくことで、自己負担を最小限に抑えられます。
テキスト代や受講手当の扱い
実務者研修のテキスト代は、介護福祉士になるためのすべての科目が盛り込まれていることもあり平均1万5千円から2万円ほどが相場で、他の介護資格よりも高額になりがちです。そのため、テキスト代が自己負担となるか会社側が負担してくれるかは、受講者にとって大きな懸念材料といえます。また、就業規則や社内制度によっては研修期間中の勤務扱いや受講手当の有無も異なるため、想定外の費用を請求されることがないよう、あらかじめ企業の担当部署と相談しておくことが大切です。
実務者研修の会社負担に関する制度や条件
会社が実務者研修の費用を負担する際には、さまざまな制度や対象条件があります。ここでは代表的な制度と、会社側が負担を決定する背景を解説します。
多くの企業では、資格取得支援をはじめとする人材育成制度を整備しており、実務者研修への費用負担もその一環として設けています。ただし、雇用形態や勤続年数など企業側の定める条件を満たしてはじめて対象となるケースも一般的です。自分がその条件に合致するかどうか、事前の確認が重要になります。
また、企業はサービス提供責任者の確保や介護報酬の加算要件充足など、経営上のメリットを見込んで研修費用を負担することが珍しくありません。こうした背景を理解しておくと、会社との交渉や申し出もスムーズに進められます。
会社負担の対象者となる条件や会社側の希望
企業は、一定期間以上勤務している従業員や、正社員としてフルタイムで働く人を優先して費用負担の対象とすることがあります。これは、研修で習得したスキルを長期的に企業へ還元してもらうことを期待しているためです。派遣社員やパートの場合は、別の条件が設定されている場合があるため、早めの確認が必要です。
雇用形態や雇用実績に基づく要件
研修費用を負担してもらうには、一定の勤続年数をクリアしていることや、今後も継続勤務する意思があることなどが要件に含まれる場合があります。就業規則や社内規定に明記されているケースだけでなく、個別に判断されるケースもあるため、担当部署に問い合わせることをおすすめします。
サービス提供責任者を確保したいとき
訪問介護事業所などでは、サービス提供責任者の配置が義務付けられており、介護福祉士実務者研修を修了している人材が求められる場合があります。サービス提供責任者を確保するため、優先的に研修費用を会社が負担することも多いです。
職員の介護福祉士が占める割合|加算を取りたいとき
介護福祉士の配置人数が一定基準を上回る場合、加算の対象となるケースがあります。そのため、会社では実務者研修修了者が増えることを通して、将来的に介護福祉士資格取得を目指す人材を育てたいという狙いがあります。結果的に経営面のメリットにもつながるため、研修費用を積極的に負担する企業も見受けられます。
定着率を上げるためのインセンティブとしての会社負担
離職率が高いとされる介護業界において、従業員の定着率向上は大きな課題です。会社が研修費用を負担することで、従業員の負担を軽減し、企業への帰属意識を高める効果が期待されます。その結果、離職の抑制につながる施策として機能するわけです。

国家資格
キャリアコンサルタント
最近の傾向として、介護事業所様から求人情報を頂く際に「少しでも応募数や採用数、定着率を上げるための試みとして、初任者研修や実務者研修などの資格取得の費用を会社負担にする」というケースは年々増加傾向にあります。
スクールを持つ企業とその負担割合
民間企業や社会福祉法人のなかには、自社で通信講座や通学カリキュラムを運営しているところもあります。こうした企業では社内研修として予算が確保されているため、ほぼ全額負担になる場合も珍しくありません。
会社の資格取得支援制度を活用する
近年、介護業界の人手不足を解消するため、多くの企業が資格取得支援制度を整えています。この制度を活用すると、実務者研修だけでなく、初任者研修や介護福祉士の取得を目指す際にも費用補助を受けられるケースがあります。自分のキャリア目標にあわせて柔軟に利用することで、金銭的負担を最小限に抑えられるでしょう。
受講料が無料になる実務者研修についての詳細は、以下の記事をご覧ください
会社負担で実務者研修を受講するメリットとデメリット
会社負担で実務者研修を受講する際に、押さえておきたいメリットとデメリットを整理します。
会社が費用を負担してくれる制度を利用すれば、受講費用に関する不安を大きく減らせる点が最大の利点です。一方、企業との契約上の取り決めにより、一定期間の勤務義務や退職時の費用返還義務が発生するケースもあります。実務者研修は介護福祉士を目指す際にも重要なステップとなるため、メリットとデメリットを理解したうえで選択を進めましょう。
メリット➀:費用負担の軽減と資格取得の促進
高額になりがちな実務者研修を会社が負担することで、経済的なハードルを一気に下げられます。金銭的な心配が軽減されることで学習に集中でき、介護職員としての知識やスキルをより短期間で身につけることが可能です。企業にとっても、専門性の高いスタッフの増加はサービス向上に直結するため、双方にとって大きなメリットとなります。
メリット②:キャリアアップや給与アップの可能性
実務者研修を修了することで、訪問介護のサービス提供責任者として働く道が開けたり、介護福祉士の受験資格を取得することにつながります。これらの資格を持つことで、給与アップや役職手当を得られるチャンスが増え、将来のキャリア設計がより明確になる点も大きなメリットです。
デメリット:会社への義務や契約上の制約
会社が費用を負担する場合、一定期間の勤務義務や退職時の違約金※1.が設定されることがあります。就業規則や契約書で明記されているケースも多いため、トラブルを避けるためにも事前に細かな条件を確認しておくことが必要です。
※1.労働基準法「賠償予定の禁止(第16条)」により、労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額を予定する契約は禁止されていますので、もし違約金やペナルティに相当するような場合には、労働基準監督署への相談をおすすめします。参照:厚生労働省和歌山労働局「賠償予定の禁止(第16条)」
会社負担利用時の注意点と受講手続き
会社負担で研修を受講する場合、あらかじめ押さえておきたい契約条件や申請手続きがあります。以下のポイントを事前に把握しておきましょう。
まずは、自社の就業規則や社内規定を確認し、費用負担に関連する条項を再チェックすることが大切です。契約違反を避けるためにも、申し込み前にしっかり理解しておきましょう。
次に、受講申請のフローと必要書類を把握することも重要です。締切がある場合は余裕を持ったスケジュールを組み、業務が多忙な時期は手続きに時間がかかることも考慮して計画しましょう。
就業契約における制約条件の確認
会社によって受講申請フローは異なります。事前に人事担当者や上司に確認して、申請書類や提出期限を把握しておきましょう。書類が不備だと審査が長引く可能性もあるので、時間的余裕を持つことが重要です。
受講申請手続きと必要書類
会社ごとに受講申請フローが異なる場合があるため、提出書類や申請プロセスを事前に確認しましょう。業務が多忙な時期に申請を行うと、手続きに時間がかかることもあるので、計画的に進めることが大切です。
注意すべき「後払い」や「返金」条件
企業によっては、従業員が費用を一時立て替えて後日精算する方法を採用しているケースもあります。返金されるタイミングや精算方法をあらかじめ確認することで、一時的な個人負担を抑えやすくなるでしょう。
多忙なスケジュール管理への影響
介護の現場は慢性的に人手不足になりがちで、研修中のシフトや業務をどう調整するかが課題となります。受講期間や研修日程を会社と相談しながら、計画的に学習を進めましょう。
仕事との両立における課題
実務者研修には通信講座と通学で学ぶコースが多く、働きながら受講する場合は時間的な制約が生じます。余裕を持ってシフトを組むほか、休暇制度の活用なども含め、会社としっかり協議しておくことがスムーズな受講のカギとなります。
会社負担以外の費用軽減方法
会社が費用を負担してくれない場合でも、さまざまな助成金や補助金制度を利用して、受講費用を抑える方法があります。
国や自治体、ハローワークなどが提供する支援制度を活用すると、研修費用の多くをカバーできることがあります。一定の条件をクリアすれば、高額な受講費の一部が返金されたり、無利子の貸付金を利用できたりと、思った以上に選択肢は豊富です。
特に教育訓練給付金制度や、地方自治体が実施している貸付金制度はぜひチェックしてみましょう。住んでいる地域や就業先によって対象や締切が異なるため、早めの情報収集が大切です。
参考:教育訓練給付金制度の詳細は、厚生労働省の「教育訓練給付制度」ページやハローワークで確認できます。
助成金や補助金制度の利用方法
国や自治体が運営する助成金制度は、要件を満たすことで受講費用の一部を補助してくれる仕組みです。申請には書類の準備や締切日程の確認が必要になるため、早めにスケジュールを組んで動き出すことが大切です。
教育訓練給付金制度の活用
雇用保険の被保険者として一定期間加入している場合、教育訓練給付金制度によって受講費用の一部(最大80%)が給付されます。通常の給付金に加え、より専門性の高い研修には専門実践教育訓練給付金が適用されることもあります。
雇用保険による専門実践教育訓練給付金の活用
専門実践教育訓練給付金は、通常の教育訓練給付金よりも支給率や支給期間が手厚い点が特徴です。実務者研修を通じて介護福祉士の資格取得を目指す場合、長期的なキャリア形成に非常に有利な制度といえます。
専門実践教育訓練給付金についての詳細は、以下の記事をご覧ください
返済義務の免除制度がある各都道府県の貸付金制度の活用
自治体ごとに、一定期間介護職として勤務すると貸付金の返済が免除される制度が用意されている場合があります。要件を満たせば実質無料で受講できることもあるため、居住地の自治体や就業先に合わせて情報収集してみましょう。
神奈川県の貸付金制度の詳細
神奈川県では、介護職員の確保と定着を目的に、実務者研修を受講する方向けの資金貸付を行い、一定期間県内で働き続けると返済免除される制度を設けています。
参考:神奈川県社会福祉協議会「介護福祉士実務者研修受講資金貸付事業のご案内」
東京都の貸付金制度の詳細
東京都では、研修修了後に都内の介護施設などで働くことを条件に、貸付金の全額または一部を返済免除とする仕組みがあります。
参考:東京都社会福祉協議会「実務者研修施設在学者向け修学資金貸付事業」
静岡県の貸付金制度の詳細
静岡県でも同様に、一定期間県内で介護職に従事すると貸付金の返済が免除される制度を設けています。
参照:静岡県社会福祉協議会「介護福祉士実務者研修受講資金貸付制度」
ハローワークや奨学金制度の利用
求職者支援訓練をはじめ、離職者や失業中の方向けに研修費用が軽減される制度をハローワークが案内している場合があります。奨学金制度を利用して学費をまかなう方法もあるため、就労状況に応じてさまざまな手段を検討してみましょう。
参照:厚生労働省「ハロートレーニング(離職者訓練・求職者支援訓練)」
実務者研修を求職者支援制度で受講したい方は、以下の記事をご覧ください
受講料が無料になるキャリアアップ支援金制度のご案内
湘南国際アカデミーなら、特定の条件を満たすと、実務者研修の受講料が就労先の企業にて全額を負担してくれる制度の為、実質無料になる支援金を用意しています。キャリアアップを目指す介護職員には有益な制度なので、是非お気軽にお問い合わせください。
湘南国際アカデミー「介護福祉士実務者研修が受講料0円!キャリアアップ支援金制度で資格取得をサポート」
実務者研修費用の会社負担に関するまとめ
実務者研修の費用を会社が負担することで、企業と従業員の双方に大きなメリットがある一方、契約条件や後払い制度などへの注意も必要です。また、補助金や貸付金制度など他のサポート策を併用することで、より負担を軽減できる可能性があります。
会社負担が受けられる場合、従業員は費用面の不安を減らして介護の専門知識を習得でき、企業としても人材育成や定着率の向上を期待できます。ただし、勤務義務や退職時の費用返還といった制約を伴うケースもあるため、事前にしっかり情報収集を行いましょう。
もし会社負担が難しい場合でも、自治体の貸付金制度や教育訓練給付金制度などを活用すれば、実務者研修にかかる費用を大幅に抑えることができます。複数の制度を比較しながら、自分のキャリア形成に合った最適な方法で研修を受けてみてください。
湘南国際アカデミーでは、介護関連資格の教育・職業紹介にてキャリア相談・就職支援を行い、ケアする側もケアするという立場で「介護をする側のQOL向上」をコンセプトに、イベントや総合的なサポートに取り組み受講生や就労先である企業からの高い信頼を築いている。
その他、キャリアコンサルタントとしての経験や視点を活かして、様々な企業において、当校の「事業所内レベルアップ研修」を各企業に合わせた研修プログラムなどをプロデュースしている。
