
平瀬亜沙子(正看護師)
この記事の監修者
2011年に湘南国際アカデミーが開講当時はスタッフとして勤務。出産を経て看護師免許を取得し、地域密着型病院で経験を積み、現在は訪問看護事業所で地域医療に携わる。医療的ケア教員講習会を修了し講師として受講生と共に課題を考え、知識と技術を着実に身につけ、自信を持って現場に立てるよう指導することを使命としている。
今、介護の現場ではより多職種が連携し利用者さんや患者さんの安楽な日常をどの様にサポートするかが課題になっています。その中でも、看護師の不足は大きな問題といえます。介護の現場で行っていた医療的行為を介護職の方にも担ってもらうことでより利用者さんとも深いかかわりやケアをすることができると思っています。
湘南国際アカデミーでも医療的ケア講習を担当する平瀬が、医療的ケアって何?から現場のお話までまとめさせていただきます。
介護職が行う医療的ケアの基本概要

医療的ケアは、主に高齢者や障害者に対し介護職員が日常生活をサポートするうえで、必要に応じて行われる特別な処置やケアを指します。一般的に医師や看護師が行ってきた医行為とは一線を画し、決められた範囲の処置を研修や資格を得たうえで実施できるようになりました。
医療的ケアとは?
では具体的に医療的ケアとは何を指すのでしょう?
現在、実務者研修の中のカリキュラムに組まれている医療的ケアは、鼻腔・口腔、気管カニューレ内の喀痰吸引と胃ろう・経鼻経管による経管栄養です。どちらも利用者の体調管理や生活の質を支援するために欠かせない行為ですが、多くの場面では看護師が担うものとされてきました。
法律の改正によって、一定の研修を経た介護職員も特定の医療的ケアを行えるようになりました。ただし業務範囲には制限があり、全ての医療行為が対象というわけではありません。講習と実施研修を経て、やっと利用者さんに対してケアを行うことができます。
介護士が行える医療的ケアの実際
先ほどの二つのケアを文字だけで見ても、イメージが湧くような…と思っている介護職の皆さんにも、実際どこまでお任せできるの?と疑問な看護師の皆さんにも具体的なケアの内容をお伝えしていきます。
介護職員が可能な医療的ケアの種類
喀痰吸引

喀痰吸引は、気道内に溜まった痰や唾液を機械で取り除く行為です。介護職員が吸引できる範囲は限定されており、口腔内や鼻腔内、そして気管カニューレ内部に限定されています。
演習では、モデル人形に対し吸引機を使って練習します。前述のとおり吸引範囲が決まっているため、演習の前には模型を使った人体構造についてもお話ししています。また気管カニューレ内の吸引の練習では、清潔操作が必要なため滅菌手袋の着脱も行います。演習内でも吸引場面がイメージできるような設定や環境をお話ししています。
介護職員の吸引のポイントが、『長さ』と『手の使い方』です。
先にお話しした通り、介護職員での吸引には範囲が決められています。安全に吸引ができるように、適切な長さとその長さで吸引できるような体勢の調整がとても重要になってきます。
気管カニューレ内の吸引では、清潔操作が必要になっています。清潔操作においての清潔と不潔は一般的な概念とは違い無菌であるかが重要です。湘南国際アカデミーでの演習では、口腔・鼻腔内の吸引演習の中時から左右の手の役割を意識し清潔操作がよりイメージつきやすいように行っていきます。
吸引は、利用者さんにとっても辛く時には怖さも感じるケアです。安全な主義も必要ですが、それ以上にも利用者さんが安心できる声掛けが重要になってきます。
経管栄養

経管栄養には、胃ろうや腸ろう、経鼻チューブを用いて栄養を摂取する方法があります。口から食事を摂るのが難しい利用者にとっては、生命維持と生活の質を保つために重要な手段です。
介護職員の実施範囲に条件はありませんが、経鼻経管栄養の実施前には看護職員が経鼻胃管が胃内に留置されているかを確認する必要があります。胃ろうや経鼻胃管を留置している際に起こる事故や、管理方法もお伝えしています。
経管栄養で重要なのが『管の管理』です。どのような構造の管が、体のどこまで入っているのか。経管栄養の投与前後の管や留置部の観察は確実な栄養の投与だけでなく、窒息や誤嚥から命を守るため必要な行為でもあります。
演習では、指示書の確認から栄養剤の準備、接続と滴下速度の調整も行っていただきます。座学では、それぞれの経管栄養法の違いや構造、管理方法を座学の中でお伝えすることで演習の中での観察の必要性につなげています。
医療的ケアを行うための資格と研修
安心・安全に医療的ケアを行うために必要な資格や研修の内容を確認しましょう。
医療的ケアを担当する介護職員には、法律で定められた研修の受講が必須とされています。これは、それぞれのケアを安全に行うための知識や技術を身につけ、トラブルを未然に防ぎ、利用者の負担を最小限にするためのものです。
研修内容には講義や演習、実地研修が含まれ、専門的な医療の視点だけでなく、高齢者特有の身体や心理の変化についても学びます。研修修了後も、定期的なスキルアップの機会を設ける施設が増えています。
資格や研修の修了後も日々学習を続けることは、日常的なケアだけでなく突発的なトラブルにも迅速に対応できる力が身につきます。結果的に利用者の安心感を高めるだけでなく、介護現場全体の質の向上にもつながるでしょう。
必要資格
医療的ケアを行うには、介護福祉士の資格取得が必要になります。介護福祉士は国家資格であり、試験の受験資格には専門学校の卒業または、実務者研修の受講と実務経験3年が必要になります。介護福祉士への養成過程の中で、医療的ケアを学びますが実地研修まで修了していない場合は、就業後にに登録事業者(登録喀痰吸引等事業者)において実地研修が必須となります。
認定種別
介護福祉士を含む介護職等が研修を終了し、その旨を都道府県に認定特定行為業務従事者としての認定証の交付を申請します。認定証種別は3種あります。
第一号・・・不特定多数の者に対し、鼻腔内/口腔内吸引、気管カニューレ内部吸引、胃ろう/腸ろう、経鼻経管栄養のすべての行為
第二号・・・不特定多数の者に対し、鼻腔内/口腔内吸引、気管カニューレ内部吸引、胃ろう/腸ろう、経鼻経管栄養の任意の行為
第三号・・・特定の者に対し必要とする行為。第三号研修は在宅介護などでの重度障碍児・者への実施を想定。
実地研修の詳細
実地研修では、それぞれのケアを受けている利用者に協力をしていただき、実際にケアを行います。実地研修では口腔内の喀痰吸引を10回以上、鼻腔内の喀痰吸引を20回以上、気管カニューレ内の喀痰吸引を20回以上、そして胃ろう・腸ろうによる経管栄養を20回以上、経鼻経管栄養を20回以上経験します。実地研修を受けていないケアは実施できないことが原則です。
医療的ケアを支える仕組みと未来への展望
日本の高齢化は急速に進んでいます。医療的ケアの需要は今後ますます高まると予測できるでしょう。また高齢者だけでなく障害を持つ方や小児にも医療的ケアが必要なケースが増えることから、社会全体でケア体制を整える必要があります。
介護職員一人ひとりの専門性を活かし、チームで利用者を支える仕組みづくりがより重要になってくるでしょう。
高齢化社会における医療的ケアの役割
高齢化社会では、脳血管障害の後遺症などによる重度の要介護状態にある方や複数の慢性疾患を抱える方が増えています。そのため日常生活の介護だけではなく、医療的ケアの知識と技能が現場で必要とされる機会が拡大しています。
こうした医療ニーズの多様化に対応するには、医師や看護師、リハビリ職、薬剤師など多職種との連携も不可欠です。介護職が医療的ケアを適切に行うことで、他の専門職の負担を軽減し、チーム全体の生産性向上につながります。
利用者の命を守り、生活の質を高めるために、介護と医療が相互に補完し合う環境づくりが求められます。こうした連携がスムーズに進むことで、地域全体のケアサービス水準が底上げされる可能性があります。
地域密着型介護への期待
高齢化者会が進むとともに、在宅で介護をされるような地域密着型サービスが増えています。
地域密着型サービスでは、利用者の住み慣れた場所で必要な医療や介護が受けられるという利点があります。特に人手不足が深刻な地域においては、地域の総力戦で高齢者や障害者を支える意識が高まっています。医療的ケアが自宅で受けられることは、利用者さんにとって療養の選択肢がいくつにも増えます。
まとめ
このページで説明した、医療的ケア演習でのポイントなどは授業内でお話ししていることのほんの一部です。私が担当授業の中で皆さんにお伝えしているのが、安全な手技です。簡単に安全といっても、手技だけではなく精神面の配慮も重要です。一緒に考えながら、よりよい医療的ケアを学んでいきたいと思っています。
湘南国際アカデミーで皆さんにお会いできる日を楽しみに待っています。
以下の関連記事も読まれています
