介護や福祉の分野で注目を集めている「福祉用具専門相談員」。あまり聞き馴染みがない名前なので具体的にどんな仕事なのか、資格が必要なのか、よくわからないという人も多いのではないでしょうか。
この記事では福祉用具専門相談員の仕事内容から、関連する資格取得の流れまでわかりやすく解説します。
福祉用具専門相談員に関する基礎知識
はじめに、福祉用具専門相談員の役割から解説していきます。
そもそも福祉用具専門相談員とは?
福祉用具専門相談員は、高齢者や障がいのある人が、自宅で安全かつ快適に生活できるようにサポートする専門職です。特に、介護保険制度を利用して福祉用具をレンタル・購入する際に、その選定をサポートする役割を担っています。
そもそも「福祉用具」とは、日常生活に不便を感じている人がより自立した生活を送るために使う道具のことで、具体的には以下のようなものが挙げられます。
- 車いす
- 介護ベッド
- 手すり
- 歩行器・杖
- 移動用リフト
福祉用具専門相談員は、これらの用具を利用者一人ひとりの状態や生活環境に合わせて選び、正しく安全に使えるように説明・調整を行います。また、納品後の点検や使用中の問題に対応し、利用者が適切に福祉用具を使い続けられるよう、継続的なサポートを行うことも重要な役割です。
福祉用具専門相談員が主婦におすすめの理由
福祉用具専門相談員は、子育てが一段落した主婦の方にとって始めやすい仕事です。まず、パートタイムや週数日の勤務など、家庭と両立しやすい働き方ができる職場が多く、自分のペースで働けます。
また、これまで家族に寄り添ってきた経験が、そのまま活かせる点も魅力です。用具の提案には利用者や家族の気持ちを理解する力も大事なため、主婦ならではの感覚が強みになります。
福祉用具専門相談員として働くには資格の取得が必要ですが、資格は約7日間の講習で取得できるため、学び直しに大きな時間や費用がかかりません。未経験であってもチャレンジしやすく、福祉や介護に関心のある方にはぴったりの仕事と言えるでしょう。
福祉用具専門相談員の主な仕事
福祉用具専門相談員の仕事は、単に福祉用具を「貸す」「届ける」だけではありません。ここでは、福祉用具専門相談員の代表的な仕事内容を4つに分けて紹介します。
ヒアリング・訪問調査
福祉用具の選定は、まず「今、何に困っているのか」「どのような暮らしがしたいのか」といった、利用者本人やその家族へのヒアリングから始まります。多くの場合は、利用者の自宅を訪問して直接話を聞きます。
ヒアリングの際は心身の状態だけでなく、住宅の構造や生活動線、介護する家族の様子など、幅広い視点で情報を集めます。福祉用具を使う環境を正しく理解することが、より安全で快適な提案につながります。
福祉用具の選定と計画書の作成
ヒアリングの内容と、担当ケアマネジャーが作成したケアプランをもとに、利用者に適した福祉用具を選びます。選定した内容は福祉用具利用計画書(福祉用具サービス計画書)という書類にまとめ、利用者や家族が理解しやすいように説明します。計画書には、選んだ福祉用具の名称やその理由、設置場所、使用目的などを記載します。
納品・調整・使い方の説明
福祉用具を納品する際は、ただ届けるだけではなく、実際の利用者の体格や状態に合わせて細かく調整する作業が必要です。例えば、車いすの高さや肘かけの位置など、少しの違いが使い心地や安全性に大きく影響します。こうした調整を行い使用者が安全に使えるようにするのも、福祉用具専門相談員の仕事です。
また、使い方に不安が残らないよう、丁寧な説明も不可欠です。本人だけでなく、家族にもわかりやすく伝えます。説明のときは、実演したり、注意点を繰り返したりと、利用者のペースに合わせた対応が求められます。
定期訪問での点検と見直し
福祉用具専門相談員の仕事は用具の提供のみではありません。使用中にトラブルがないか、使いづらくなっていないかを確認するため、年に2回以上の定期訪問(モニタリング)を行います。
この訪問では、福祉用具の点検だけでなく、心身の状態や生活状況が変わっていないかを確認し、必要に応じて別の商品を再提案します。例えば、状態が改善して用具が不要になった場合や、反対に身体の衰えが進み別の用具が必要になる場合も多いため、変化に対応できる柔軟さが必要です。
福祉用具専門相談員が活躍できる主な場所
福祉用具専門相談員の資格を取った後の活躍の場は、実は「福祉用具を貸す・売る事業所」だけにとどまりません。高齢化社会が進むなかで、福祉用具に関するニーズはさまざまな業種に広がっており、働き方や仕事内容も多様になっています。ここでは、主な就職先を4つ紹介します。
福祉用具貸与・販売事業所
多くの福祉用具専門相談員が活躍しているのが、福祉用具貸与・販売事業所です。ここでは、ケアマネジャーや利用者からの依頼に応じて、適切な福祉用具を選定・提案し、納品後の調整や点検、定期訪問などを行います。
介護保険の制度上、福祉用具貸与・販売事業所は2名以上の福祉用具専門相談員の配置が義務付けられているため、求人が多いです。
住宅リフォーム会社・工務店
近年は、住宅メーカーやリフォーム業者でも福祉用具専門相談員が求められています。高齢者が自宅で安心して暮らせるよう、手すりの設置や段差の解消などのバリアフリーリフォームを行う際に、福祉用具専門相談員の知識が役立つからです。
実際に、福祉用具の販売を行う会社が住宅リフォームを手がけるケースも増えており、「住まいと道具の両面から支える」仕事に携わることも可能です。さらに、福祉住環境コーディネーターなどの資格と組み合わせれば、より専門的な知識を活かして働ける場が広がります。
福祉用具メーカー
福祉用具のメーカーでも、専門的な知識を持った人材として、福祉用具専門相談員の資格保有者が求められる場合があります。特に、新商品の開発や商品改良の際には、実際の利用者や現場のニーズを理解していることが大きな強みになります。また、営業職として商品の提案を行う際にも、資格を持っていればより説得力のある説明が可能です。そのためメーカーによっては、求人票の中に福祉用具専門相談員の資格を歓迎要件として明記していることもあります。
介護施設や小売店舗
福祉用具専門相談員の知識は、介護施設やドラッグストア、ホームセンターなどでも役に立ちます。
介護施設では、職員として福祉用具の使い方や安全な使い方をチーム内に共有する役割を担ったり、自ら福祉用具の調整を行ったりする場合もあります。
また、小売店舗では、介護用品の売場で来店客に商品選びのアドバイスを行う販売サポートとして採用されるケースがあるため、一定の需要があるでしょう。
福祉用具専門相談員の資格を取るには
最後に、資格の取得方法から費用、講座の内容まで、福祉用具専門相談員を目指す上で知っておきたいポイントをわかりやすく解説します。
資格の取得方法
福祉用具専門相談員の資格は、「指定講習」の修了により取得できる公的資格です。都道府県の認可を受けた民間スクールや福祉団体などが実施しており、特別な受講条件はありません。
講習はおよそ50時間のカリキュラムで構成されており、教室での対面講習のほか、オンライン形式で学べる講座も増えています。講習の最終日には筆記試験が実施されますが、内容は講義の復習レベルで難易度はそれほど高くなく、講義をしっかり学んでいれば合格できるでしょう。
講習で学ぶ主な内容
講習では、福祉用具に関する基本的な知識から、介護や医療の基礎、高齢者の生活への理解まで、幅広く学ぶことができます。主なカリキュラムは以下のような内容です。
- 福祉用具と相談員の役割、倫理
- 介護保険制度やサービスの仕組み
- 高齢者の身体や生活環境に関する知識
- 各種福祉用具の特徴と活用方法
- 福祉用具の選定・計画書の作成方法
- 実践的なケース演習
専門用語も丁寧に解説されるため、介護の知識がまったくない人であっても理解しやすい講習となっています。
資格取得にかかる費用
講習にかかる費用は、教習機関によって異なりますが、およそ4〜6万円です。まとまった出費にはなりますが、教育訓練給付制度などを活用すれば、受講費用の一部をハローワークから支給してもらえる場合があります。
国家資格を持っていれば講習免除も可能
以下の国家資格を持っている場合には、講習を受けなくても福祉用具専門相談員として働くことが認められています。
- 介護福祉士
- 社会福祉士
- 保健師
- 看護師/准看護師
- 理学療法士
- 作業療法士
- 義肢装具士
これらの資格保有者は、福祉用具に関する専門知識を持っているとみなされるため、別途講習を受ける必要がありません。ただし、かつて対象とされていた「ホームヘルパー1級・2級」「介護職員初任者研修」などの資格は、2015年の制度改正により対象外となっているため、改めて講習を受ける必要があります。
FAQ|福祉用具専門相談員に関するよくある質問
介護や福祉の仕事に関心がある方から寄せられる代表的な質問をまとめました。
- Q1.福祉用具専門相談員の資格取得に年齢制限や学歴の条件はありますか?
- A
ありません。指定講習は年齢・学歴・職歴に関係なく、誰でも受講・修了することができます。再就職を目指す方や子育てを終えた主婦の方、未経験の社会人など、幅広い層の方が資格を取得しています。
- Q2.実務未経験ですが、資格取得後に就職できる可能性はありますか?
- A
実務経験がない方でも就職は十分に可能です。特に、福祉用具貸与事業所では法令により専門相談員の配置が義務づけられており、資格保有者へのニーズは安定しています。実習のある講習で基礎を身につけておくと、現場でもスムーズに対応できます。
- Q3.資格取得に必要な講習の学習内容や難易度はどの程度ですか?
- A
講習では介護保険制度の仕組み、用具の種類・機能、高齢者の身体特性、相談技術、福祉用具サービス計画書の作成などを学びます。内容は介護分野の基礎が中心で、専門用語も丁寧に解説されるため、未経験者でも無理なく理解できる構成です。修了試験は講義内容の復習レベルで、合格率は高い傾向にあります。
- Q4.福祉用具専門相談員の仕事は身体的負担が大きいですか?
- A
仕事内容には用具の搬入や調整など多少の力仕事も含まれますが、過度な負担になることは少なく、特別な体力が求められるわけではありません。業務の中心は「相談業務」と「選定・調整業務」であり、利用者の生活改善に向けたコミュニケーション力や観察力が重視される職種です。
- Q5.どんな人が福祉用具専門相談員に向いていますか?
- A
高齢者や障がいのある方の暮らしを支えたいという思いがある人、誰かの役に立つ仕事に就きたいと考える人に向いています。また、利用者や家族と丁寧に接する姿勢や、相手に合わせてわかりやすく説明する力も重要です。介護現場での経験がある人はもちろん、異業種からの転職者でも活躍しやすい仕事です。
福祉用具専門相談員として活躍を目指そう
この記事では福祉用具専門相談員の仕事内容や活躍できる場所、資格取得の流れを解説しました。家庭と両立しやすく、未経験であっても始めやすい福祉用具専門相談員は、多くの現場で必要とされています。
資格は短期間の講習で取得でき、さまざまな職場で活躍可能です。国家資格保有者は講習免除も可能なので、自分に合ったルートで挑戦しましょう。新しいキャリアを目指すなら、福祉用具専門相談員をぜひ検討してみてください。
その他、介護事業所や医療機関などにおいて当校の「事業所内スキルアップ研修」の企画・提案・実施など各事業所用にカスタマイズする研修をプロデュースし、人材確保・育成・定着に向けた一連のプログラムを手掛けている。
