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介護事業所のシニア職員活躍|65歳・70歳雇用と定着の実務7項目

  • 介護事業所向け研修

介護事業所のシニア人材活用は、「定年を延ばす」だけでは完成しません。65歳までの雇用確保と70歳までの就業確保は法律上の位置づけが異なり、就業規則、雇用契約、職務、勤務時間、安全、評価、研修を一つの仕組みとして設計する必要があります。

厚生労働省は2026年9月16日、「令和8年度 高年齢者活躍企業コンテスト」の受賞企業29社を公表しました。応募は64社で、10月9日には受賞企業の表彰と事例発表を行う「高年齢者活躍企業フォーラム」が会場・オンライン併用で開催され、後日のアーカイブ配信も予定されています。

この記事では、介護サービス業の実態を調べた高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)のガイドラインと厚生労働省の制度資料を基に、介護事業所が今から整えたい7項目を解説します。個別の就業規則、契約、賃金を変更する前には、社会保険労務士や労働局へ確認してください。

2026年9月16日の発表を介護事業所が見る理由

高年齢者活躍企業コンテストは、高年齢者が能力を発揮できる職場づくりや雇用機会の確保に取り組む企業を表彰するものです。2026年度は29社が受賞しました。受賞企業の制度をそのまま導入するのではなく、自法人と規模、業務、職員構成が近い事例から、再雇用後の役割、勤務、評価、設備改善、技能継承の考え方を学ぶ機会になります。

フォーラムは2026年10月9日13時〜16時30分にイイノホールで開かれ、オンライン配信も予定されています。参加方法や配信条件は主催者ページで確認してください。日程は人事施策そのものの期限ではありませんが、次年度の採用・人員配置・研修計画を検討するための情報収集日に設定できます。

60歳・65歳・70歳の違いを整理する

厚生労働省「高年齢者雇用安定法の概要」を基に作成。契約形態や対象者基準には条件があるため、制度設計時は現行法令・通達を確認する
年齢・制度事業主に求められること主な選択肢
60歳未満定年を定める場合、60歳を下回る定年は不可60歳以上で定年設定
65歳まで雇用確保措置は義務定年引上げ、継続雇用制度、定年廃止のいずれか
70歳まで就業確保措置は努力義務定年引上げ、継続雇用、定年廃止、業務委託、社会貢献事業など

65歳までの雇用確保は「希望者がいれば配慮する」という任意制度ではありません。定年を65歳未満に定める事業主は、法律が定める措置を講じます。一方、70歳までの就業確保は努力義務です。雇用以外の選択肢もありますが、業務委託に変えれば労働法上の問題がすべてなくなるわけではありません。実態が雇用なら、契約名称だけで判断されないため専門家確認が必要です。

厚生労働省の2025年集計では、従業員21人以上の237,739社のうち、65歳までの高年齢者雇用確保措置を実施済みの企業は99.9%でした。内訳は継続雇用制度65.1%、定年引上げ31.0%です。70歳までの就業確保措置を実施済みの企業は34.8%で、前年より2.9ポイント増えました。全国全産業の集計であり、介護事業所だけの割合ではありません。

介護サービス業ではシニア人材がすでに現場を支えている

JEEDと全国民間社会福祉従事者共済連絡協議会が作成したガイドラインは、2024年9〜10月に約1,000事業所へ調査し、211事業所から回答を得ています。回答率は21.1%で、職員調査は264人です。標本に基づく結果であり、国内すべての介護事業所をそのまま表すものではありませんが、職務設計を考える具体的な材料になります。

JEED「高齢人材が輝く介護サービス業へ」PDF p.4、p.10〜11、p.15を基に作成
調査で示された項目結果実務への示唆
高齢人材を雇用する事業所8割以上例外的な雇用ではなく、日常の人事制度として整える
高齢人材の雇用形態パートタイム75.9%短時間勤務だけでなく役割・評価・更新基準を明確にする
介護業務へ直接従事84.0%補助業務へ一律限定せず、能力と安全を個別に見る
現在の職場で働き続けたい78.5%定期面談と働き方の調整で定着可能性を高める

「高齢だから身体介護はできない」「経験者だから教育は不要」と決めつけるのは適切ではありません。年齢が同じでも、経験、資格、健康、体力、希望、家庭状況は異なります。職務は年齢一律ではなく、本人との対話、業務の危険性、必要能力を基に決めます。配慮を特別扱いにせず、全世代が使える設備や相談制度へ広げることも大切です。

介護事業所が整えたい実務7項目

1.就業規則・雇用契約・対象者をそろえる

定年年齢、継続雇用の対象、契約期間、更新基準、業務、勤務場所、勤務時間、賃金、退職を同じ方針で整理します。規程には制度があっても、求人票や現場説明が違えば不信につながります。65歳までの雇用確保義務と70歳までの就業確保努力義務を混同せず、労使協議と必要な届出を確認します。

再雇用時に契約が変わる場合は、変更点と理由を本人が理解できるよう説明します。「定年後だから」という理由だけで職務や賃金を決めず、責任、経験、成果、勤務条件との関係を示します。有期契約の更新上限や雇止め、無期転換、社会保険・雇用保険の適用は個別条件で異なるため、労務担当者と社会保険労務士が確認します。

2.業務を分解し、能力と負担を個別に合わせる

「介護職」という一つの箱で考えず、移乗、入浴、食事、見守り、記録、送迎、清掃、物品管理、家族連絡、後輩指導などに分解します。その上で、資格、経験、得意分野、身体負担、勤務可能時間と合わせます。直接介護を続けたい人を年齢だけで外さず、安全面の評価を行います。

JEEDのガイドラインは、重い物の運搬、長時間の立ち仕事、直接介護、運転、高温環境などについて負担を確認するよう示しています。担当を外すか続けるかの二択ではなく、福祉用具、作業姿勢、組み合わせ、人員、休憩、時間帯を調整します。本人の申告だけに頼らず、実際の作業を観察します。

3.短時間・短日数・時間帯を選べる勤務にする

シニア人材の中には、フルタイムを希望する人、家族介護や通院と両立したい人、朝夕の短時間なら働ける人がいます。早番・遅番・夜勤を一律に免除または要求するのではなく、健康状態、生活、交通手段、本人の希望を聞き、サービス提供に必要な時間と組み合わせます。

短時間勤務では、業務の切れ目と申し送りが重要です。誰が記録を完了するか、急変や事故の連絡を誰へ渡すか、会議や研修へどう参加するかを決めます。シフトの穴を埋めるだけの配置にすると、本人にも常勤職員にも負担が偏ります。短時間勤務者が担当する成果と連携方法を職務記述に含めます。

4.安全・健康を年齢だけでなく作業から評価する

厚生労働省のエイジフレンドリーガイドラインは、経営トップの方針、担当者の指定、リスクアセスメント、職場環境改善、健康・体力状況の把握、業務との適合、教育を一連で進める考え方を示しています。照明、段差、床、休憩場所、重量物、温熱環境、車両、福祉用具などを点検します。

健康診断の結果や通院情報は機微な個人情報です。必要な範囲で産業医・医師の意見を得て、本人と話し合い、就業上の措置を決めます。診断名を必要以上に共有せず、現場には勤務上の配慮事項を伝えます。事故が起きてから「年齢のせい」にせず、全世代の転倒、腰痛、交通事故を減らす設備と手順へ改善します。

5.研修とデジタル支援を全世代へ開く

経験豊富な職員でも、介護保険制度、感染対策、虐待防止、認知症ケア、記録システムは更新されます。「ベテランだから分かるはず」と研修を省かず、勤務時間内の参加、録画、少人数実習、紙の手順書など複数の学び方を用意します。操作を一度で覚えることを求めず、練習環境と相談者を決めます。

若手がデジタル操作を教え、シニア職員が介助の判断や家族対応を伝える相互学習にすると、世代間の役割が固定されません。研修後は受講回数だけでなく、記録の完了時間、差戻し、事故・ヒヤリ・ハット、本人の不安がどう変わったかを確認します。法人研修を見直す場合は、湘南国際アカデミーの介護事業所向け研修もご確認ください。

6.役割・評価・賃金の関係を説明できるようにする

定年前後で賃金が変わる場合、職務、責任、配置、勤務時間、評価との関係を説明できることが重要です。年齢だけで一律に評価を下げると、意欲と納得感を損ないます。技術、利用者対応、記録、チーム貢献、後輩育成など複数の項目で評価し、本人へフィードバックします。

一方、若い職員にだけ負担が集まる設計も長続きしません。身体介護、夜勤、委員会、指導、急な勤務変更など、見えにくい負担を可視化します。配慮が必要な人だけの特例ではなく、育児、治療、家族介護など全世代が利用できる柔軟な仕組みにすると、公平感を保ちやすくなります。

7.定期面談で希望・負担・技能継承を更新する

JEEDのガイドラインは、定期的な個別面談で健康、負担、職場での孤立などを確認し、記録・共有することを勧めています。年1回だけでなく、契約更新前、業務変更後、体調や家庭状況が変わったときに臨時面談を行います。「大丈夫ですか」だけでなく、つらい動作、避けたい時間帯、続けたい役割を具体的に聞きます。

面談では、いつまで働くかだけでなく、何を次世代へ渡したいかも確認します。利用者の変化を見抜く視点、家族との関係づくり、地域との連携など、マニュアル化しにくい知識を選び、同行、事例検討、動画、手順書で残します。継承を本人任せにせず、時間と評価を付けた業務として扱います。

90日で始める実行計画

法定期限を示す表ではなく、本稿の提案する実施例。規程変更や労働条件変更は労使協議・専門家確認を経て行う
期間行うこと成果物
1〜30日年齢構成、規程、契約、退職予定、事故、研修、面談状況を棚卸し現状一覧、法的確認事項、優先リスク
31〜60日業務分解、本人面談、作業観察、職務・勤務・設備の改善案作成職務マップ、個別配慮案、研修案
61〜90日小規模で試行し、本人・同僚・管理者の評価を集めて修正改定手順、評価指標、次の90日計画

最初から全事業所を一斉に変える必要はありません。退職・再雇用が近い部署、腰痛や転倒が多い業務、採用難が強い時間帯など、課題が見える範囲から始めます。ただし、試行を非公式な運用のままにせず、対象、期間、責任者、評価方法を決め、労働条件に関わる変更は正式な手続きを取ります。

経営会議では、人員数だけでなく、制度改定の責任者、労使協議、予算、現場責任者、相談窓口を決めます。複数事業所を持つ法人は共通ルールと事業所裁量の範囲を分け、試行結果を法人本部へ戻します。採用、労務、教育、安全衛生が別々に進めると説明や運用が食い違うため、一つの進捗表で管理しましょう。

試行対象者には目的、期間、評価方法を事前に説明し、本人の同意と意見を記録します。終了後は、継続、修正、中止の判断理由を共有し、他部署へ広げる条件を明確にします。

追跡したいKPIは人数だけではない

  • 60歳以上・65歳以上の人数、採用数、更新数、退職数
  • 希望勤務と実際の勤務の一致、時間外労働、休暇取得
  • 研修参加率、記録システムの習熟、資格取得
  • 転倒、腰痛、交通事故、ヒヤリ・ハットの発生状況
  • 定期面談の実施率、改善提案と対応完了率
  • 本人と同僚双方の職務・公平感・継続意向

「70歳まで働く人が増えた」だけでは、無理なく力を発揮できているかは分かりません。事故や離職だけでなく、勤務希望、負担、研修、チームへの影響を合わせて見ます。年齢別データを扱うときは、本人が特定されない集計単位とアクセス権限を決め、健康情報をKPI一覧へ載せないようにします。

導入時に見落としやすい法務・労務上の確認
  • 就業規則と実際の定年・再雇用運用が一致しているか
  • 有期契約の更新基準、上限、雇止め説明が明確か
  • 職務・責任が同じ場合の待遇差を説明できるか
  • 健康情報の取得目的、保管、共有範囲が適切か
  • 送迎を含む運転業務の適性確認と事故対応があるか
  • 業務委託を選ぶ場合、実態が雇用になっていないか

制度の適否は、法人規模、現在の規程、契約、業務実態で変わります。本稿は一般的な情報で、個別案件への法的助言ではありません。就業規則の変更、労働条件の不利益変更、再雇用基準、業務委託を設計するときは、労働局、ハローワーク、社会保険労務士、弁護士などへ確認してください。

FAQ|介護事業所のシニア職員雇用

Q1.
希望者全員を70歳まで雇用する義務がありますか?
A

65歳までの雇用確保措置は義務ですが、70歳までの就業確保措置は努力義務です。70歳までには雇用以外の選択肢もあります。対象者基準や手続には条件があるため、現行法令と自法人の規程を専門家と確認してください。

Q2.
再雇用後は全員を短時間勤務にしてよいですか?
A

本人の希望や職務を確認せず一律に決めるのは避けます。勤務時間、職務、責任、賃金、更新基準を説明し、合意と必要な手続きを経ます。フルタイムを希望し、能力・健康面で可能な人もいます。

Q3.
高齢職員は身体介護から外すべきですか?
A

年齢だけで一律に外すのではなく、本人の能力、健康、希望と業務リスクを個別に評価します。福祉用具、勤務時間、複数配置、作業方法を改善し、それでも負担が大きい業務を調整します。

Q4.
パート職員にも研修が必要ですか?
A

雇用形態にかかわらず、担当業務に必要な安全・介護・法定研修を受けられる体制が必要です。勤務時間と重なる開催、録画、短時間の反復、個別支援など参加しやすい方法を整えます。

Q5.
最初に何から着手すればよいですか?
A

定年・継続雇用の規程と実際の運用、今後3年の年齢構成、本人の希望、事故・負担の大きい業務を棚卸しします。次に優先部署を一つ決め、面談と作業観察を行い、90日で試行・評価します。

まとめ|年齢ではなく、役割と安全を設計する

介護サービス業では、シニア人材がすでに利用者支援の重要な担い手です。65歳までの雇用確保と70歳までの就業確保の違いを押さえ、就業規則だけでなく、職務、勤務、安全、研修、評価、面談まで整える必要があります。

成功の基準は、最高雇用年齢や人数だけではありません。本人が能力を発揮でき、若手へ負担が偏らず、利用者の安全とサービス品質を守れることです。2026年10月9日の高年齢者活躍企業フォーラムも情報収集に活用し、自法人で再現できる小さな改善から始めましょう。

湘南国際アカデミーでは、介護事業所の課題に合わせた研修をご案内しています。安全な介護、職員育成、資格取得支援を含む研修計画の検討にお役立てください。

出典・参考資料

本記事は2026年9月18日時点で確認できた公開情報にもとづいて作成しています。JEEDガイドラインは211事業所からの回答(回答率21.1%)に基づく標本調査であり、全国の介護事業所を網羅する統計ではありません。制度の適否は個別に専門家へご確認ください。

この記事を書いた人
介護老人福祉施設に10年在籍し、研修受け入れ担当として年間100名以上の研修生を指導。
湘南国際アカデミーでは初任者研修・実務者研修・介護福祉士受験対策の講師を務めるほか、受験対策テキストの執筆も担当。
介護技能実習評価試験評価者として外国人介護士の受け入れ支援、事業所向けスキルアップ研修のプロデュースなど、人材確保・育成・定着に向けた幅広い活動を展開している。
江島 一孝
藤沢校・横須賀校・海老名校・相模大野校・横浜戸塚校・横浜馬車道関内校・小田原校・大和校・横浜二俣川校
【所持資格】
介護福祉士・介護福祉士実習指導者・介護支援専門員・福祉用具専門相談員・介護技能実習評価試験評価者
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