
中澤みほ(キャリアコンサルタント)
この記事の監修者
大学でキャリアカウンセリングを学び、最年少でキャリアコンサルタント資格取得。公的機関や大学の就職支援等で約1万人を支援。湘南国際アカデミーにて介護資格教育・就労サポートを担い、現在は上智大学グリーフケア研究所でも学びを深めている。
【所持資格】
国家資格キャリアコンサルタント
上智大学グリーフケア研究所認定 臨床傾聴士
一般社団法人全人力を磨く研究所認定 ホリスティックケア士
一般社団法人日本ホスピタリティ検定協会認定 グリーフケア・リテラシー検定合格
近年、高齢化社会の進展に伴い、家族の介護を必要とする働く世代が増えています。仕事との両立が叶わず離職せざるを得ない“介護離職”は、個人や企業、社会全体に大きな影響をもたらす深刻な問題です。
本記事では、介護離職の現状や背景、それが与える影響、そして具体的な防止策や離職後の選択肢をキャリアコンサルタントの視点から解説します。厚生労働省などの公的機関も、介護休暇取得推進や両立支援施策を進めていますが、制度の周知不足や職場の理解不足は依然として課題です。
読者の皆様が仕事と介護を両立しやすくなるように、ポイントを絞った知識やヒントを提供できれば幸いです。
介護離職の現状と背景
まずは介護離職の定義や人数、増加の背景を理解しましょう。
少子高齢化の進む日本では、ますます多くの人が家族の介護を必要とする局面に直面しています。中でも親世代の要介護者が増え、働き盛りの世代が介護と仕事を両立せざるを得なくなる状況が拡大中です。突発的な介護ニーズに対応できず、離職を検討する人も少なくありません。
国や自治体が整備している介護と仕事の両立支援制度はあるものの、実際の利用率は高いとは言えず、職場の偏見や相談窓口の不在などが原因で、介護離職のリスクが高まります。団塊世代が75歳以上を迎える2025年問題では、労働力人口の減少と介護需要の増加が同時に進行すると予想され、さらなる対策が必須と考えられています。
最近では、祖父母などの介護を担うヤングケアラーの存在も社会的に注目されており、多様な世代が介護離職の当事者になり得るとされています。早めの情報収集と備えが、個人・企業ともに大きなメリットをもたらすでしょう。
参照元:こども家庭庁「ヤングケアラーについて」
介護離職の定義と概要
介護離職とは、家族や近親者の介護を理由に離職することを指します。日常的な身体介助や突発的な緊急対応が重なるため、心身の負担が大きくなり、最終的に仕事を続けられなくなるケースが多いのが特徴です。
介護離職者の人数と統計
厚生労働省の調査(出典:厚生労働省「仕事と介護の両立等に関する実態把握 のための調査研究事業 報告書」など)によると、年間数万人が介護を理由に職を離れていると報告されています。高齢化が進む今後、さらに増える可能性は高いとされ、職場のサポート体制や公的制度の活用が離職回避の大きなポイントです。
介護離職が増加する背景と理由
急激な少子高齢化や社会構造の変化が、介護離職増加の主な要因といえます。共働きが一般化した一方で、時間的・体力的負担が大きい介護が重なると、仕事との両立が困難になりがちです。また、介護サービスの利用法がわからず、地域包括支援センターやケアマネジャーに相談できずに家族のみで抱え込む例も多く見られます。
2025年には、団塊世代が後期高齢者入りすることで要介護者がさらに増える見込みです。医療費や介護費用の増大、労働力不足の深刻化に直面する国全体にとって、介護と仕事を両立させる環境整備は喫緊の課題といえます。
社会構造の変化とジェンダー格差
共働きや女性の社会進出が進む一方、令和に入っても介護負担が特定の家族や女性に偏る傾向は残っています。働きながら介護する女性が離職せざるを得ないケースは依然として多く、ジェンダー格差の是正や働き方改革の推進が、介護離職防止にも直結すると考えられています。
介護離職がもたらす影響
介護離職は個人だけでなく、企業や社会全体に大きなダメージを与えます。失業による収入減やキャリア断念、企業の人材流出、社会保障費の増大など、多方面にわたる問題が連鎖的に起こるのです。
個人への影響
介護離職は経済的損失に加えて、長期的なキャリアプランの断念を迫る深刻な事態を招きます。突然の入院や脳梗塞などの緊急事態が起こると、自分の健康管理や社会生活が後回しになり、ストレスや孤立感に陥りやすくなります。
身体的にも精神的にも大きな負担が続くと、うつ症状や健康被害のリスクが高まるでしょう。家族や職場の理解が得られないまま介護を続ける場合、趣味や社会参加の機会も失われ、将来のキャリア展望すら見えなくなる懸念があります。
企業への影響
ノウハウを蓄積した熟練社員が離職することで、企業の安定的な業績や成長が妨げられます。人員が少ない職場ほど、一人の離脱が大きな穴を生み、他の従業員に過剰な負担がのしかかることに。結果として、社内のモチベーション低下や新たな離職者の増加を招きかねません。
介護離職を防ぐための取り組みと解決策
介護離職を防ぐには、労働者個人と企業、さらに社会全体が協力し、制度活用や職場環境の整備を進める必要があります。公的支援と民間サービスを上手に組み合わせることで、仕事と介護の両立がぐっと現実的になるのです。早めの情報収集や周囲との連携が重要なカギを握ります。
個人ができる対策
まずは、介護に関する知識や制度を正しく理解することが肝心です。上司や人事部に相談し、可能であればテレワークや時差出勤など柔軟な働き方を交渉してみましょう。スケジュール管理や業務調整を丁寧に行うだけでも、両立がスムーズになる場合があります。
介護特有の精神的負担を軽減させる
介護は先が読めない不安要素が多い点が特徴です。家族間での気持ちの共有や、どのような介護サービスを利用するかの価値観をすり合わせておくことが大切でしょう。そうしなければ、「在宅介護のために辞めてほしい」というような一極集中の負担が生まれるリスクが高まります。
仕事を辞めずに外部サービスへ依頼することで後悔が残るケースもあり、実際に「施設に入れた後悔」で退職までしてしまった事例も存在します。後悔しないよう、家族の希望と介護者自身の生活をバランスよく考える必要があります。
介護を支えるサービスや相談窓口の活用
地域包括支援センターやケアマネジャーに相談すると、自分だけでは気づかない介護サービスや補助が見つかる可能性が高まります。必要に応じてアウトソーシングも検討し、離職リスクを下げることが賢明です。
利用可能な国や自治体の支援制度
日本では、育児・介護休業法などによって多様な制度や給付金が整備されていますが、利用率が低いのは周知不足や条件の複雑さが原因とされます。まずは自分のケースに合った制度を把握し、職場を辞めずに介護と仕事を両立する道を模索しましょう。
介護休業制度の概要と給付金
育児・介護休業法に基づき、最大3回に分けて介護休業を取得でき、介護休業給付金を受け取ることで収入減を抑えられます。さらに、就業規則で独自の介護支援制度を設けている企業もあるので、可能性をチェックしてみましょう。
短時間勤務やフレックスタイム制の利用
通院付き添いや夜間のケアが多い場合は、短時間勤務やフレックスタイム制が活用できるか会社と交渉してみてください。時間の融通が利くだけでも、介護と仕事の両立に大きく寄与します。
助成金や補助金制度の活用
自治体独自の助成金や補助金を利用すれば、訪問入浴やショートステイなどのコストを抑えられるケースもあります。地域の役所や支援センターで詳細を調べると、経済的不安が軽減され、離職回避につながるでしょう。
企業が取るべき具体策
企業側も、介護と仕事を両立できる制度を導入し、従業員同士のサポート体制を整備する責任があります。管理職が日頃から介護離職問題を把握し、部下が相談しやすい環境をつくることが大切です。こうした取り組みは企業イメージや従業員エンゲージメントの向上につながります。
介護離職後の支援と選択肢
やむを得ず介護離職した場合でも、再就職支援や社会保障を活用して新たなスタートを切ることは可能です。ハローワークなどの公的機関やオンライン求人を併用し、自分が培った介護経験やスキルを活かせる職場を探してみましょう。
再就職に向けた支援とアドバイス
離職期間が長くても、介護経験はマネジメント能力や対人スキルを高める機会とも言えます。自己分析で強みを明確にし、再就職支援セミナーやカウンセリングを活用することで、次のキャリアを見つけやすくなります。
介護経験を活用する履歴書の書き方
履歴書や職務経歴書を作成する際は、介護離職で無職だった期間を空白とするのではなく、家族の介護で身につけた調整能力や危機管理能力、自治体との連携力などを具体的に書き込むことを検討してください。実際に介護の現場で得た経験は、状況判断や柔軟な対応力を求められる多くの仕事で評価される要素となります。自信を持って、そのスキルを“武器”としてアピールしましょう。
履歴書の書き方に関しての詳細は、以下のページをご覧ください
スキルアップや研修プログラムの利用
自治体や民間企業が開催する研修やセミナーに参加し、新しいスキルや資格を得ることで転職の幅が広がります。特に求職者支援訓練制度は、介護離職者を含む無職の方が職業訓練を受けられるシステムとして有効です。
求職者支援訓練に関する詳細は、以下の厚生労働省のページをご覧ください
介護経験を活用し、介護職へと転職する
湘南国際アカデミーの介護職員初任者研修では、「親の介護がきっかけで仕事を辞めたが、これを機に介護業界で働きたい」という方も多数受講されています。ただし、「自分の親を介護すること」と「他者にサービスを提供すること」の違いを理解する必要があります。家族介護の経験をベースに、「ご家族さまのお気持ちを汲み取れるかもしれない」という謙虚さを持ってスタートする方が多いのが特徴です。
履歴書の書き方に関しての詳細は、以下のページをご覧ください
社会保障制度の活用
介護離職後は、生活費確保が最優先となります。失業保険や各種の補助金、福祉制度などを組み合わせて経済的な負担を軽減すれば、再就職活動に注力しやすくなるでしょう。
失業保険や補助金制度の活用方法
介護が離職理由でも雇用保険の受給条件を満たしていれば失業保険を受け取れます。自治体によっては介護者向け給付金や研修費補助も設けられています。まずは地域の支援策を調べてみると良いでしょう。
介護手当や特別制度を知る
特定の条件を満たすと支給される介護手当や交通費補助など、自治体独自の制度も少なくありません。自分の家庭状況に合った制度を見つけることで、日常的な介護費の圧縮が期待できます。
FAQ(よくある質問)
- Q1.介護離職を防ぐためにはどんな制度を使えますか?
- A
育児・介護休業法に基づく介護休業や介護休業給付金、短時間勤務、フレックスタイムなどが代表的です。企業独自の介護支援制度がある場合もあるため、就業規則を確認してください。
(引用元:厚生労働省「育児・介護休業法について」)
- Q2.仕事を辞めずに介護を乗り切るコツはありますか?
- A
まずは家族内で負担を共有し、地域包括支援センターやケアマネジャーなど専門家の助言を仰ぎましょう。アウトソーシングの活用やテレワークの導入なども有効手段です。
- Q3.介護離職後の再就職は難しいのでしょうか?
- A
離職期間が長引くとハードルは上がるものの、介護経験を自己分析して強みに変えることで再就職に成功する例も多いです。ハローワークや再就職支援セミナーなどを積極的に活用しましょう。
- Q4.親の介護で退職しました。介護職への転身はアリですか?
- A
自分の親を介護する場合と他者にサービスを提供する場合には違いがあります。とはいえ、家族介護の経験を活かして家族や利用者の気持ちに寄り添える人材も増えています。湘南国際アカデミーの初任者研修では、こうした方が多数受講しています。
受講料が無料になる初任者研修についての詳細は、以下の記事をご覧ください
- Q5.資格取得で何かおすすめはありますか?
- A
介護職員初任者研修は、在宅介護から施設勤務まで幅広く活かせる資格です。介護福祉士など上位資格へのステップアップも視野に入ります。
初任者研修に関しての詳細は、以下のページをご覧ください
まとめ:介護離職問題の解決へ向けて
介護離職は避けられない運命ではなく、適切な制度やサポートを活用すれば回避できる可能性があります。高齢化が進む日本では、誰もが介護と仕事を両立する選択を迫られる時代が来るかもしれません。個人としては早期の情報収集と専門機関への相談が、リスクを大幅に減らす近道と言えます。
企業側も、人材流出を防ぐために柔軟な働き方や社内サポートの強化に取り組む必要があります。結果として、従業員満足度や企業イメージの向上にもつながるでしょう。
湘南国際アカデミーでは、介護離職防止セミナーを含む様々な研修を企業向けに開催しています。管理職向けのダイバーシティ教育や、一般職向けの接遇・キャリア研修など、会社を挙げて“介護離職しない職場づくり”を進めるためのメニューを提供中です。資料請求やお問い合わせは、ぜひご相談フォームからお気軽にどうぞ。
湘南国際アカデミーでは、介護関連資格の教育・職業紹介を通じ、「介護をする側のQOL向上」をテーマにイベントや研修を企画し、受講生や就労先企業から厚い信頼を獲得。これまで延べ約1万人を支援する中でグリーフケアの重要性を痛感し、仕事と人を結ぶだけでなくケアの視点を含む総合的なサポートを目指している。現在は上智大学グリーフケア研究所でさらなる学びを得ながら、各企業向け「事業所内レベルアップ研修」の企画・運営にも携わり、介護とキャリアの両面から多面的に活動を展開している。
