介護職員の処遇改善を図る重要な加算として注目を集めてきた「介護職員等特定処遇改善加算」は、2024年度に廃止され、新設の「介護職員等処遇改善加算」に一本化されました。
本記事では、介護職員等処遇改善加算の概要や制度の変遷、加算要件などを押さえながら、わかりやすく解説していきます。
介護職員等特定処遇改善加算の目的と背景
特定処遇改善加算が導入された背景には、介護現場の慢性的な人材不足と賃金水準の低さが大きく関わっています。
特定処遇改善加算は、ベースとなる処遇改善加算の上乗せとして創設されました。大きな目的は、より高い専門性や長年の経験を積んだ介護職員の賃金水準を引き上げ、担い手のモチベーションを高めることにあります。こうした仕組みにより、人材定着とサービスの品質向上を同時に狙う政策的意図が込められてきました。
しかし、加算の改定や配分ルールの見直しが頻繁に行われるため、現場での対応が複雑になりがちです。特に経験・技能を評価する仕組みや資格保有者への加配など、要件を正しく理解していないと十分に活かせない可能性があります。そうした背景もあり、複数の加算を一本化する動きとなりました。
介護職員等処遇改善加算との関連性と制度の変遷
従来から存在していた介護職員処遇改善加算は、介護現場の給与水準を引き上げ、離職率の低下を目指すために導入されました。そこに、さらなる賃金改善を図るために特定処遇改善加算が重なる形で誕生したのが現在までの経緯です。
これまでは、処遇改善加算と特定処遇改善加算、さらにベースアップ等支援加算が併存する構造になっていました。このため事業所側としては、それぞれの取得要件や報告手順を理解しなければならず、煩雑な運用が避けられません。こうした課題を解消し、より明快な仕組みに再編するため、介護職員等処遇改善加算に一本化されることになりました。
介護現場の人材不足と処遇改善の必要性
介護現場では、高齢化の進展に伴う需要の増加に対して、担い手の不足が深刻化しています。賃金水準が低いこともあり、他業種への転職を選ぶ人が少なくありません。
こうした構造的な人材不足を解消するには、介護職に長く勤めるメリットを感じられる環境整備が求められます。処遇改善加算は、経験・技能を重視して企業内のキャリアパスを分かりやすく示す狙いを含んでおり、処遇改善を強化することで人材確保を図ってきました。
介護職員の教育や人材確保に関しての詳細は以下のページをご覧ください
支給対象となる介護サービスと職員
特定処遇改善加算は、経験・技能のある介護職員に手厚い処遇を行うことを目的とし、介護福祉士をはじめとした対象範囲が定められています。
特定処遇改善加算は、訪問介護や通所介護、入所サービスなど広範囲で取得が可能です。ただし、事業種別によって単位数や加算率が異なる場合もあるため、サービスの種類ごとに細やかな確認が必要となります。
また、職員全員が対象というわけではなく、介護福祉士資格や一定の勤続年数を有するなどの基準を満たす職員が中心となります。さらに、事業所が特定処遇改善加算を取得する条件としては、既存の処遇改善加算を取得していることが望ましく、複数の制度要件をクリアしながら運用することが重要です。
経験・技能のある介護職員の定義
一般的には、介護福祉士の資格を持ち、かつ一定年数以上の実務経験がある職員が「経験・技能のある介護職員」として優先的に賃金改善を受けられます。経験が浅くても、実技や研修評価など独自の基準を設けることで、“技能要件”を満たすと認められるケースもあります。
この設定は介護現場でキャリアアップや能力評価が行われやすくなるよう配慮されており、結果的に離職防止やサービス品質の向上にもつながります。本来は資格だけでなく、実務経験や専門研修の受講状況などを総合的に見て判定が行われています。
対象外となるサービス・職員の具体例
加算を受けるためには、まずは「介護職員処遇改善加算(I)〜(III)」のいずれかを取得していることなど、前提条件を満たす必要があります。もし取得していない場合や要件を満たしていない場合は、対象外になります。
職員のうち、介護職ではない事務スタッフやケアマネジャー、短期間の非常勤パートなど、一定の条件に該当しない職員は特定処遇改善加算の配分から外れることもあります。今後、新制度への移行で対象範囲が見直される可能性もあるため、最新の通知や要件を随時確認することが大切です。
以下の関連記事も読まれています
介護職員等特定処遇改善加算の算定要件
加算を取得するにあたり、先行して取得が必要な要件や条件が存在します。ここでは算定要件を整理します。
特定処遇改善加算を算定するには、まず基本となる介護職員処遇改善加算(I)〜(III)のいずれかを取得していることが大前提です。さらに、経験・技能のある職員を適切に評価し、賃金改善を行う体制を整えているかどうかが問われます。
また、職場環境改善に関する取り組みを公表するなど、情報の透明性を確保する仕組みが求められています。制度を活用することで、利用者へのサービス品質の向上や職員のキャリア形成を実質的に支援していくことが期待されています。
介護職員処遇改善加算(I)〜(III)の取得状況との関係
特定処遇改善加算は、介護職員処遇改善加算(I)〜(III)のいずれかを取得している事業所が、さらに上乗せで申請できる仕組みです。これらの加算を取得しているということは、最低限の処遇改善施策や賃金向上策をすでに実施している証となります。
そのため、特定処遇改善加算は「より充実した」処遇改善を狙った制度とも言え、事業所によっては加算額が大きくなる可能性があります。ただし、対応するための業務や書類作成が増える傾向にあるため、余裕を持った運用体制が求められます。
特定処遇改善加算(I)と(II)の違い
特定処遇改善加算には、配分率や要件が異なる「(I)」と「(II)」があり、どちらを選択するかで受給できる単位数や賃金改善の幅が変わってきます。基本的には、より要件が厳しく、経験・技能のある職員の配置や研修が充実しているほど、高い配分率を得られる仕組みになっています。
一方で、要件が厳しいほど事業所の運営コストや報告業務が負担となりやすい面もあります。どちらの加算区分を選ぶかは、自社の職員構成や運用体制、そして将来的な人材戦略に合わせて検討していくことが重要です。
介護事業所様への出張型研修の詳細は、以下のページをご覧ください
加算率と計算方法のしくみ
特定処遇改善加算の加算率や計算方法は複雑ですが、基礎を理解することで賃金改善への道筋が見えやすくなります。
特定処遇改善加算の金額は、サービス提供実績を基に算出される報酬単位に乗じる形で加算率を計算します。具体的には、どの加算区分を取得しているか、どの介護サービスを提供しているかによって単位数や加算率が異なる仕組みです。
同時に、算定結果における端数処理や報告時の記入方法など、実務上の細かい手順も存在します。こうした点を正しく把握していないと、適正な加算額を受給できないリスクがあるため、事業所担当者は日頃から最新情報をチェックしながら対応する必要があります。
具体的な加算額・加算率の例
例えば、訪問介護の特定処遇改善加算(I)の場合、1回あたりのサービス単位に一定の加算率(例:1.2%~1.5%など)が上乗せされ、その合計が毎月の加算額として算定されます。施設系のサービスではさらに異なる計算式が適用され、要介護度合いなども影響します。
サービスの種類によっては、高めの加算率が設定されているケースもあり、また事業所の努力や職員配置状況によっても配分率は変化します。具体的な金額を把握することが、職員への適切な賃金改善や経営計画を立てるうえで重要です。
給与アップ・賃金改善への配分ルール
特定処遇改善加算では、経験・技能のある職員の給与を優先的に引き上げることが求められています。具体的には、要件を満たす職員が月額8万円相当以上の改善を得るなどの目標が示されており、同時に他の介護スタッフとの格差が極端に開かないよう配慮するルールも存在します。
こうした賃金改善の配分ルールは、事業所内の透明性や納得感を確保するために欠かせません。加算を受け取った後も、どのように分配し、どれだけの改善が実現したのかを定期的に見直すことで、職員のモチベーション維持と現場の安定運営を図ることができます。
届出と実績報告の手順・注意点
事業所が加算を取得するには、所定の書類提出と実績報告が欠かせません。ここでは、その概要と注意点を紹介します。
特定処遇改善加算を取得するためには、市町村や都道府県などの担当窓口へ必要な書類を整えて届出を行い、毎年度ごとの実績報告を行う流れが基本です。これらの手順は処遇改善加算と共通する部分が多いものの、加算の種類や区分によって異なる提出書類が必要になる場合もあります。
提出期限を厳守しないと加算が適用されないリスクがあるため、年度末や期初のスケジュール管理が重要です。実績報告の際には加算額や配分の状況を詳細に記入し、不備がないかを十分にチェックすることが求められます。
提出先や提出期限の確認
特定処遇改善加算を含む処遇関連の書類は、自治体担当部署に提出する場合と、国保連合会などを通じて手続きを行う場合があります。各自治体によって若干の違いがあるため、早めに確認しておくと混乱を防げます。
提出期限は年度の切り替え時期が多く、通常は年度末から年度初めにかけて集中します。早期に書類を準備し、必要項目を漏れなく記入しておくことが、スムーズに加算認定を受けるコツです。
実績報告のポイントとよくあるミス
実績報告書には、対象職員ごとの加算額や賃金改善の状況を反映させる必要があります。特に、経験・技能を有する職員への配分が適切かどうかや、賃金の配分ルールが想定と相違ないかのチェックが重要です。
よくあるミスとしては、集計漏れや書類の不備、期限内に提出しきれないなどの点が挙げられます。事業所の規模にもよりますが、複数名でダブルチェックを行うなど、リスクヘッジをしておくことをおすすめします。
2024年新設「介護職員等処遇改善加算」の概要
特定処遇改善加算に代わり、2024年度から一本化された「介護職員等処遇改善加算」とはどのような制度なのでしょうか。
2024年度からは、従来ある処遇改善加算や特定処遇改善加算、ベースアップ等支援加算などが統合され、「介護職員等処遇改善加算」として運用が開始されました。これにより、別々の要件や届出手順を踏む煩雑さが軽減される見通しです。
一方で、一本化されたことで要件や加算率が一元化されるため、これまでよりも大枠での要件調整が行われる可能性があります。運営上の混乱を防ぐためにも、最新の通知や各事業所向けの説明会などで情報を得ながら準備を進めることが求められます。
以下の関連記事も読まれています
制度一本化の狙いと影響
複数の加算を一本化する狙いとしては、重複していた申請・報告業務を一本化し、現場の負担を軽減することが挙げられます。また、新制度によって処遇改善の効果がよりわかりやすくなるため、介護職員にとっても待遇の見通しが立ちやすくなるメリットがあります。
ただし、再編によって加算区分の構成が変わるため、職員配置や賃金テーブルの見直しを余儀なくされる場合もあります。行政の指針に合わせた柔軟な対応が、サービス提供に影響を及ぼさないうえで不可欠です。
FAQ|介護職員等特定処遇改善加算関するよくある質問
- Q1.福祉・介護職員等処遇改善加算との違いは?
- A
類似の名称としては「福祉・介護職員等処遇改善加算」がありますが、こちらは障害福祉サービスにおける処遇改善を目的とした加算です。
2024年度に新設された「介護職員等処遇改善加算」と同様のものと捉えて問題ありません。
- Q2.特定処遇改善加算廃止後の手続きはどうなる?
- A
2024年度からは「介護職員処遇改善加算」「介護職員等特定処遇改善加算」「介護職員等ベースアップ等支援加算」という3つの制度が「介護職員等処遇改善加算」に一本化されました。「介護職員等処遇改善加算」の要件を満たすための書類提出や実績報告が求められます。
事業所としては、制度が一本化される分、要件の重複や報告事務の簡略化が期待される一方、変更点に合わせた準備と手続きを怠らないようにしましょう。
まとめ・総括
特定処遇改善加算の概要と新制度への移行ポイントを総合的に振り返り、今後の対策を確認してきました
特定処遇改善加算は、介護職員の処遇改善を強化し、人材不足が深刻化する業界を支えるための重要な施策でした。しかし、複数の加算制度が複雑に絡み合い、現場での運用がわかりにくくなっていたのも事実です。2024年度からの制度一本化によって、より簡潔な仕組みとなることが期待されます。
一方で、新制度における具体的な加算率や要件の詳細は、厚生労働省の動向や自治体の通知を注視しながら柔軟に対応していく姿勢が欠かせません。介護サービスの質保証と職員のモチベーション向上を両立させるためにも、今後の改正情報を的確に追いながら自社の運用体制を整備していくことが重要となるでしょう。
湘南国際アカデミーでは、それぞれの介護事業所様のニーズに合わせた社員研修をカスタマイズしてサポートしています。お気軽に無料相談をご利用ください。
その他、介護技能実習評価試験評価者として外国人介護士の受け入れ機関への評価業務や、介護事業所や医療機関において「事業所内スキルアップ研修」の企画・提案・実施など各事業所用にカスタマイズする研修をプロデュースし、人材確保・育成・定着に向けた一連のプログラムを手掛けている。


