認知症ケアは、症状を「抑える」ことだけが目的ではなく、本人の尊厳を守りながら安心して暮らせるよう生活を支える取り組みです。
本記事では、認知症ケアで大切にする考え方、本人理解のための情報収集、認知症の基礎知識を整理し、日々の関わりに落とし込める形でまとめます。
最後に、学び直しの方法やよくある疑問への回答も扱い、明日からのケアを組み立てる土台をつくります。
認知症ケアで大切にする考え方
認知症の人の言動の背景には不安や混乱、環境要因が隠れていることが多く、まずは「尊厳」と「安心」を軸に関わりを整えることが重要です。
認知症ケアの中心は、本人を「できない人」として扱うのではなく、「いまの力で生活を続ける人」として支えることです。記憶や判断が揺らぐと、本人は自分でも理由がわからないまま不安になり、結果として拒否や怒り、落ち込みといった形で表れやすくなります。
実践では、正しさの押し付けよりも安心の提供を優先します。例えば間違いを訂正しても本人の混乱が増えるだけの場面では、事実の修正より気持ちの安定が重要です。本人の体験世界を尊重しながら、危険がない形へ誘導するのがケアの技術です。
もう一つの軸は「予測できる暮らし」を増やすことです。予定や手順が見えないと不安が強まりやすいため、声かけは短く、選択肢は少なく、環境はシンプルに整えます。これによりBPSD※1.を減らしやすくなり、介護する側の負担も下がります。
※1.BPSDとは、**Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia(認知症の行動・心理症状)**の略で、日本語では「認知症の行動・心理症状」と訳されます。

介護福祉士
【監修者コメント】
厚生労働省の「認知症施策推進大綱」でも、認知症の人を“支えられる存在”ではなく“地域で共に生きる主体”として捉える視点が示されています。認知症ケアは、本人の尊厳を守りながら地域で暮らし続けられる社会の実現を目指す取り組みです。
その人らしさを知るための情報収集
本人の生活歴・価値観・得意不得意を把握すると、ケアの選択肢が増え、BPSDの予防や軽減にもつながります。
認知症ケアが難しく感じる理由の一つは、同じ行動でも「その人にとっての意味」が違うことです。例えば歩き回る行動も、運動したいのか、トイレを探しているのか、帰宅したいのかで対応は変わります。情報収集は、この意味を見立てるための材料になります。
ポイントは、本人の人生と現在の環境、そして身体状態をセットで捉えることです。生活歴だけを知っても、痛みや便秘、睡眠不足があれば不穏は起きます。逆に身体の問題だけを見ても、役割の喪失や孤独が続けば不安は残ります。
集めた情報は、現場で使える形に整えることが大切です。覚えている人だけが知っている状態だとチームケアが崩れます。短い言葉で共有できる「その人の大事にしていること」「落ち着く条件」「避けたい刺激」を見える化すると、関わりがぶれにくくなります。
本人理解に役立つ聞き取りと観察のポイント
聞き取りは、家族と本人の両方から行うと精度が上がります。生活歴(仕事、家庭での役割)、趣味、日課、こだわり、苦手なこと、安心できる声かけや距離感を確認し、「何をされると嫌か」まで具体化します。本人の語りが断片的でも、誇りにしている経験や大切にしてきた価値観が見えることがあります。
観察は、日常場面の条件を揃えて記録するのがコツです。時間帯、場所、周囲の音や明るさ、関わった人、直前に起きた出来事(排泄、食事、入浴、移動など)を押さえると、行動のきっかけが見えやすくなります。特に夕方以降の疲労、空腹、混雑、声の大きさはトラブルの引き金になりやすい点です。
繰り返し言動を「問題」ではなくサインとして捉える
同じ質問を繰り返す、強い訴えが続く、落ち着かず動くといった言動は、本人が困っていることを伝えるサインである場合が多いです。見当識の揺らぎで「いまが分からない」、短期記憶の低下で「答えを保持できない」など、脳の働きの特徴が背景にあります。
評価の視点として、痛み、便秘、尿意、空腹、脱水、眠気、疲労、薬の影響、難聴や視力低下など身体要因をまず疑います。次に、環境刺激(騒音、まぶしさ、人の出入り)、コミュニケーションの負荷(早口、情報過多、選択肢が多い)を点検します。ここを飛ばして否定や叱責に進むと、不安が増えBPSDが強まりやすくなります。
対応は抑え込みではなく、安心を作る方向で組み立てます。見通しを短く伝える、注意を自然に別へ移す、環境を静かに整える、小さな役割をお願いして自尊心を守るなどが有効です。本人が落ち着いた後に原因を検証し、次の場面で再現しない工夫に落とし込むことが、ケアの質を上げます。
認知症の基礎知識
WHOでは認知症を「記憶、思考、見当識、理解、計算、学習能力、言語および判断の障害を特徴とする症候群」と定義しています。日本でも厚生労働省が同様の定義を示しており、単なる“物忘れ”とは異なる病的状態とされています。(出典:WHO「Dementia」)
認知症とは何か
認知症とは、さまざまな原因で認知機能が低下し、日常生活に支障が出ている状態を指します。単なる物忘れと違う点は、忘れた自覚が乏しくなったり、段取りや判断が難しくなったりして、生活の中の困りごととして現れることです。例えば、支払いができない、火の始末が不安、服薬管理が難しいといった形で表れます。
加齢による物忘れは、体験の一部を忘れてもヒントで思い出せたり、生活機能が保たれたりすることが多い一方、認知症は「生活障害」が目立ちます。ただし本人は困りごとを言語化できないこともあるため、周囲が変化に気づくことが重要です。
早期に把握する意義は、適切な治療や支援につながること、環境調整で困りごとを減らせること、家族の負担を見通し立てて整えられることです。気になる変化があれば、かかりつけ医や専門外来、地域包括支援センターなどに相談し、孤立せずに情報と支援を得ることが出発点になります。
認知症の症状(中核症状・BPSD)
症状は大きく、中核症状とBPSDに分けて考えると整理しやすくなります。中核症状は病気そのものによる認知機能低下で、記憶障害、見当識障害(日時や場所が分からない)、実行機能障害(段取りができない)、失語・失行・失認などが含まれます。ここは本人の努力で埋めにくい領域であり、支援や代替手段が必要になります。
BPSDは、不安、抑うつ、焦燥、怒り、暴言暴力、徘徊、幻覚妄想、睡眠障害などで、環境や関わり、身体状態によって強さが変わり得ます。つまり、BPSDは「本人の性格」ではなく、困りごとや負担が表面化した結果であることが少なくありません。この視点があると、責める対応から原因探索へと切り替えやすくなります。
まず原因探索(痛み、便秘、感染、薬、疲労、感覚低下など)を行い、次に環境調整(騒音や導線、照明、表示、活動量)を整え、関わり方(短く伝える、否定しない、選択肢を絞る、安心を言語化する)を工夫します。それでも本人や周囲の安全が保てない場合や急な変化がある場合は、医療と連携して評価と治療につなげます。

介護福祉士
【監修者コメント】
BPSD(行動・心理症状)は、厚生労働省のe-ヘルスネットでも、環境要因や身体的要因によって強さが変化する症状と説明されています。つまり、対応次第で軽減できる可能性があるという視点が重要です。
認知症の種類と四大認知症の特徴
四大認知症は、アルツハイマー型、血管性、レビー小体型、前頭側頭型です。それぞれ得意・不得意や困りやすい場面が違うため、ケアの焦点も変わります。疾患名の暗記よりも「どんな症状が出やすく、何に注意すべきか」をつかむことが実践的です。
➀アルツハイマー型認知症
記憶障害から始まり、少しずつ進行することが多いタイプです。新しい出来事の保持が難しいため、説明は短く繰り返し、見える手がかり(メモ、予定表、ラベル)を活用すると生活が安定しやすくなります。失敗体験が増えると自尊心が傷つきやすいので、できたことを評価し、役割を保つ工夫が重要です。
➁血管性認知症
脳血管障害の影響で段階的に悪化することがあり、麻痺や失語など身体症状を伴う場合があります。できる日とできない日の差が出やすいため、できない日を責めず、疲労や体調に合わせて課題の量を調整します。再発予防の観点から、医療との連携や生活習慣管理も大切です。
③レビー小体型認知症
幻視、注意や認知の変動、パーキンソン症状(動作が遅い、転倒しやすい)などが特徴です。本人は見えているものを現実として体験しているため、頭ごなしに否定すると不安が強まります。不安への共感と安全確保を優先し、転倒リスクを下げる環境調整や、症状変動を前提にした予定の組み立てが必要です。
➃前頭側頭型認知症
行動の変化や脱抑制、こだわり、社会性の低下が前面に出ることがあります。叱るほど対立が深まりやすいため、ルールを言葉で説得するより、環境側で起きにくくする設計が有効です。刺激を減らし、本人の習慣を活かした日課を作り、周囲が同じ対応を取れるようチームで統一します。
認知症ケアの基礎と公的研修
認知症ケアの基礎は、制度上も重要な位置づけにあります。2021年度以降、介護に直接携わる無資格職員には「認知症介護基礎研修」の受講が義務づけられました。これは、認知症の基本理解やBPSDへの対応を最低限身につけるための公的研修です。
つまり、「認知症ケアの基礎」は現場の経験則ではなく、制度としても求められる専門領域なのです。
認知症に関する学び直しに役立つ研修
現場で迷いが出たときは、体系的に学び直すことで対応の引き出しが増えます。
本記事で解説した「認知症の理解」「BPSD対応」は、介護福祉士国家試験の科目群「こころとからだのしくみ(認知症の理解)」にも含まれる分野です。出題構成は受験の手引に明示されています 。

介護福祉士
【監修者コメント】
湘南国際アカデミーでは、制度に基づき、「認知症介護基礎研修」をはじめ「認知症介護実践者研修」「認知症介護実践リーダー研修」を実施しています 。基礎からチームマネジメントまで、段階的に学ぶことが可能です。
FAQ|認知症ケアの基礎に関するよくある質問
- Q1.認知症ケアの基礎とは何ですか?
- A
認知症ケアの基礎とは、「本人理解」「症状理解」「環境調整」を軸に支援を組み立てることです。
困った行動を表面的に抑えるのではなく、背景にある不安や身体不調、環境要因を探り、安心できる生活を整えることが基本になります。
- Q2.認知症ケアでまず大切なことは何ですか?
- A
尊厳と安心を守ることです。
間違いを正すことよりも、混乱を減らし、安心できる環境をつくることを優先します。声かけは短く、選択肢は少なく、見通しを伝えることが基本です。
- Q3.BPSD(行動・心理症状)にはどう対応すればよいですか?
- A
まず原因を探ることが重要です。
痛み、便秘、脱水、疲労、騒音、情報過多などの要因を確認し、環境や関わり方を調整します。BPSDは「性格」ではなく、困りごとのサインと捉える視点が基礎になります。
- Q4.認知症介護基礎研修とは何ですか?
- A
認知症介護基礎研修は、介護に直接携わる無資格職員に対して義務づけられている公的研修です。
認知症の基本理解やBPSD対応など、現場で最低限必要な知識を学ぶ内容になっています。制度としても「認知症ケアの基礎」は重要視されています。
- Q5.認知症ケアの知識は国家試験でも問われますか?
- A
はい。
介護福祉士国家試験では、「こころとからだのしくみ(認知症の理解)」として出題範囲に含まれています 。認知症の中核症状やBPSD、支援の考え方は専門職として必須の知識です。
- Q5.認知症ケアを学び直す方法はありますか?
- A
公的研修や専門研修を活用する方法があります。
湘南国際アカデミーでは、指定研修である「認知症介護実践者研修」「認知症介護実践リーダー研修」を実施しており 、基礎からチームマネジメントまで体系的に学ぶことが可能です。
まとめ:本人理解と認知症理解を土台にケアを組み立てる
認知症ケアは「本人のこれまで」と「病気としての特性」の両方を踏まえて、安心できる環境と関わりを積み重ねることが要点です。
認知症ケアの基礎は、尊厳と安心を軸に、正しさよりも生活の安定を優先することです。困った言動を表面だけで捉えず、本人の不安や混乱、身体不調、環境負荷といった背景を探る姿勢が、BPSDの予防と軽減につながります。
そのために必要なのが情報収集です。生活歴や価値観、安心できる関わり方を聞き取り、日常場面を条件付きで観察し、事実と解釈を分けて共有することで、チームで同じ見立てを作れます。
基礎知識として、認知症の定義、中核症状とBPSDの違い、四大認知症の特徴を押さえると、対応の優先順位が明確になります。学び直しと振り返りを継続し、支援も活用しながら、本人にとっての安心を具体的なケアに変えていきましょう。
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参考資料・出典
- 厚生労働省「認知症施策推進大綱」
- 厚生労働省「e-ヘルスネット」
- 日本神経学会「認知症疾患診療ガイドライン」
- WHO 「Dementia」
現在はキャリアアドバイザーとして、求職者の就労サポートや企業支援を担当。採用担当経験者としての豊富な経験を活かし、求職者の強みを引き出す面接対策にも定評がある。介護業界の発展に貢献するべく、求職者・企業双方の支援に尽力。
プライベートでは息子と共にボーイスカウト活動を再開し、奉仕活動を通じて心を磨くことを大切にしている。
また、湘南国際アカデミーが発行する「介護業界マンスリーレポート」の企画・監修にも関わり、介護事業所の人材課題や育成ニーズについて、継続的に現場情報の収集・分析を行っている。






