
江島一孝(介護福祉士)
この記事の監修者
介護福祉士、実習指導者、介護支援専門員として10年以上の経験を持ち、湘南国際アカデミーで介護職員初任者研修や実務者研修の講師、介護福祉士国家試験の対策テキスト執筆を担当。
介護業界でキャリアアップを目指すうえで、実務者研修は大きなステップとなる資格です。実務者研修を修了することで、より専門性の高い介護スキルを身につけられ、国家資格である介護福祉士の受験資格としても必須になります。
とはいえ「実務者研修」と一口に言っても、実際にどのような学びが得られ、どんな現場で活かせるのかイメージがつかない方も少なくありません。受講費用やスケジュール管理など、懸念点もいろいろありますよね。
そこで本記事では、実務者研修と初任者研修の違いや取得によるメリット・デメリット、受講費用の抑え方や学習のポイントを網羅的に解説します。自分に合った学習スタイルで資格を取得し、介護業界でのさらなる飛躍を目指しましょう。
実務者研修とは?基本概要と取得の必要性
まずは実務者研修とは何か、なぜ取得が重要視されるのかを知るところから始めましょう。
実務者研修とは、介護職として必要な専門知識や技術を広く身につけられる研修のことを指します。特に医療的ケアに関する学習が含まれている点が大きな特徴で、初任者研修修了者よりも高度なケアを行えるようになるため、多くの施設や事業所で「実務者研修修了者」を募集条件に挙げるケースが増えています。
また、医療的ケアや介護過程の学習がカリキュラムに組み込まれているため、取得すれば活躍の場が一気に広がるメリットがあります。無資格であっても受講自体は可能ですが、すでに保有している資格や実務経験によって受講時間や費用が変わる点は注意が必要です。さらに、国家試験である介護福祉士の受験資格を満たすための必須研修でもあり、キャリアアップを目指す介護職員にとって重要なステップとなります。
初任者研修との違い:受講内容と難易度の比較
初任者研修と比較すると、実務者研修は受講時間が長く、学習内容もさらに専門的です。初任者研修では日常生活の基礎的な介護技術を中心に学びますが、実務者研修では喀痰吸引や経管栄養といった医療的ケアに加え、介護過程の理論を深く学べるのが特徴です。
難易度は高めに感じるかもしれませんが、しっかりとカリキュラムに沿って進めれば修了が難しすぎるわけではありません。特に初任者研修を修了している人は、一部科目の免除が受けられるケースが多く、時間と費用の負担を軽減できるメリットがあります。
さらに詳しい内容は、以下の記事をご覧ください。
訪問介護や介護施設で実務者研修が注目される理由
近年、高齢化の進行に伴い、訪問介護や介護施設では医療的ケアを必要とする利用者が増えています。実務者研修を修了しているスタッフは、より高度なケアや緊急時の対応なども期待される即戦力となります。
特に訪問介護事業所では「実務者研修修了」を条件とする求人も多く、サービス提供責任者候補として優遇される場合も少なくありません。こうした背景から、専門性を評価してもらいやすい資格として注目度が高まっています。
実務者研修で学ぶ内容:カリキュラムと学習時間
実務者研修のカリキュラムは比較的長期にわたります。無資格の方は450時間程度の受講が必要になることが多く、初任者研修を持っている場合は一部科目が免除されて受講時間が短縮されます。
学ぶ内容は身体介護や生活支援技術、コミュニケーション技術など幅広い科目にわたり、医療的ケアに関する実習も大きなポイントです。通信課程とスクーリングを組み合わせた学習形式が主流で、忙しい方でも仕事や家庭と両立しながら資格取得を目指せるよう配慮されています。
実務者研修に関しての詳細は、以下のページをご覧ください
実務者研修を取得する5つのメリット
実務者研修を修了することで得られる恩恵はたくさんあります。ここでは代表的な5つのポイントを紹介しましょう。
介護業界では「資格がキャリアアップへのカギ」と言われることが多いですが、実務者研修には学んだことをすぐに現場で活かせる実践的な側面もあるのが特徴です。医療的ケアを扱える安心感が増し、利用者に対して自信をもって向き合えるのは大きな強みと言えます。
1. 介護福祉士の受験資格を得ることができる
介護職における国家資格である介護福祉士を受験するには、実務者研修の修了が必須要件となります。実務経験ルートでの受験でも、この研修を受けていないと試験を受けることができません。
将来的に介護福祉士を取得することで、給与や待遇面での向上はもちろん、専門性の高い介護職員として認められる機会も増えます。キャリア形成の土台となる資格なので、早めに学んでおくメリットは大きいでしょう。
2. 喀痰吸引や経管栄養など医療的ケアを学べる
利用者の中には、自力での食事や呼吸が難しい方も多くいます。こうした方へ専門的な介助を行ううえで、喀痰吸引や経管栄養などの医療的ケアを習得しているか否かは、ケアの質に大きな差を生みます。
実務者研修でこれらのスキルを修得していれば、日常的なケアにもゆとりが生まれ、緊急時の対応力にもつながります。何よりも「自分ができる介助の幅が広がった」という自信が、利用者や周囲からの信頼にも直結します。
3. 給与アップ・手当支給など待遇改善が期待できる
実務者研修を修了していることで資格手当の支給対象となったり、基本給のベースが上がったりすることも珍しくありません。施設や事業所によっては、数千円から数万円単位で月給が変わるケースもあります。
また、仕事の評価もされやすくなるため、昇給や昇進の機会が増える可能性が高まります。自分の努力が直接的に待遇改善につながる点は、大きなモチベーションになるでしょう。
4. 就職・転職先の幅が広がる
実務者研修を修了していることで「即戦力」と判断され、介護施設や訪問介護だけでなく、医療との連携が必要な現場でも活躍できる可能性が高まります。求人情報でも「実務者研修修了者歓迎」の文言が多く、地域や職種の選択肢が広がるのは大きな魅力です。
転職を考えている方にとっても、資格を持っていることでアピール材料が増え、採用担当者の目に留まりやすくなるでしょう。
5. サービス提供責任者を目指せる
訪問介護におけるサービス提供責任者は、スタッフの指導や利用者との調整などマネジメント領域にもかかわる重要なポジションです。実務者研修以上の資格を持っていなければ就けないケースが多いので、キャリアアップの一環として取得する人が増えています。
管理職への道も開けるため、将来的にはケアマネジャーなどさらなる上位資格のステップアップにもつながりやすいのが特徴です。
実務者研修を取得するデメリットや注意点
メリットが多い一方で、取得にあたって把握しておきたいデメリットや注意点もあります。計画的に学習できるよう、事前に確認しておくとスムーズでしょう。
費用面や学習時間、家族や職場の理解を得ることなど、思わぬハードルに直面することもありますが、あらかじめ心構えをしておけば対処しやすくなります。
受講費用が高額になりがち
実務者研修の受講費用は、10万円以上かかることが多く、スクールやコース内容によってはさらに高くなる場合があります。ただし、公的な教育訓練給付金制度や自治体独自の助成制度を利用できれば、自己負担を抑えられる可能性があります。
特に、湘南国際アカデミーなど一部の教育機関では、割引キャンペーンや分割払いなど多様なサポートを提供しているケースもありますので、事前にチェックしてみるとよいでしょう。
受講料が無料になる実務者研修についての詳細は、以下の記事をご覧ください
仕事や家庭との両立が大変
通信課程があるとはいえ、スクーリングや実技演習で通学が必要になるため、仕事や家庭と両立するのは容易ではありません。特に長期間の受講になると、休日や夜間の時間を割かなければならないこともあります。
家族や職場に理解を得るだけでなく、自分自身の体調管理やモチベーション維持も欠かせません。学習計画を立てて無理なく受講する工夫が必要です。
無料・割引制度や支援制度を調べておく必要性
金銭的な負担を軽減するためには、公的な支援制度や企業独自の補助制度を最大限活用しましょう。求職者支援訓練やハローワークの研修制度など、定期的に情報が更新されるため、公式サイトや窓口で最新の情報を確認しておくことが重要です。
結果的に受講費用が数万円単位で変わることもあるので、早めにリサーチして条件に合うものを見つけると負担がぐっと減ります。
実務者研修を求職者支援制度で受講したい方は、以下の記事をご覧ください
実務者研修の取得費用と期間を安く・短くするコツ
少しでも費用と時間を抑えたい方は、以下のポイントを押さえておくと効率的です。
初任者研修を持っている方は免除制度をうまく活用することで、学習時間や費用を大幅に削減できる場合があります。さらに、教育訓練給付金や自治体独自の補助などを組み合わせれば、経済的負担を軽くすることが可能です。
教育訓練給付金や自治体の助成制度を活用する
多くのスクールや講座が「専門実践教育訓練給付金」の対象となっており、厚生労働省の定める一定の条件をクリアすれば、受講料の最大80%が戻ってくる可能性があります。自治体によっては独自の助成制度がある場合もあり、家計への負担を大幅に軽減できます。
江島一孝も、研修受け入れ担当者として多くの受講生を見てきましたが、こうした公的支援制度を有効に使って実務者研修を受講する方は増えています。早めに情報収集をしておくことが、受講を決める際の大きなポイントになります。
専門実践教育訓練給付金についての詳細は、以下の記事をご覧ください
スクール・講座の選択するポイント
スクールを選ぶ際には、通学のしやすさやオンラインサポート、講師の質やサポート体制など、複数の観点から比較検討することをおすすめします。
実際に授業を受ける講師の経歴や口コミ、卒業生の体験談などは学習の満足度を左右する重要な要素です。特に、質問や相談がしやすい環境だと学習効率が高まり、最後までモチベーションを保ちやすくなります。
初任者研修を持っている場合の免除科目を活かす
すでに初任者研修を修了している方は、実務者研修の一部科目を免除できる場合が多いです。これによって、受講時間・受講費用ともに軽減されるメリットがあります。
また、初任者研修で得た基礎知識を土台にすると、実務者研修の学習範囲もスムーズに理解しやすくなるはずです。現場での経験と講義内容がリンクしやすいため、実践力をさらに高められます。
実務者研修取得後に開けるキャリアパス
実務者研修を修了すれば、介護職として新たなフィールドが広がります。ここでは代表的なキャリアパスを簡単にご紹介します。
資格を取得して終わりではなく、その後にどのような働き方を目指すかをイメージしておくことで、学習のモチベーションを保つことができます。
介護福祉士合格へのステップ
実務者研修を修了すると、介護福祉士国家試験の受験要件を満たせるため、正式に受験申込が可能になります。介護福祉士は国家資格としての知名度も高く、専門性の高さを証明する大きな強みです。
実務者研修で学んだ内容は国家試験の対策に直結するため、講師やスクールによっては実務者研修修了後にそのまま受験対策講座を受ける人も多いです。
サービス提供責任者として求められるスキル
訪問介護現場で重要なポジションとなるサービス提供責任者に就くには、実務者研修以上の資格を必須とする事業所が一般的です。現場スタッフの指導や利用者への対応など、幅広い業務を担うため、管理能力や調整力が求められます。
実務者研修で身につけた専門知識をベースに、マネジメント力を高めたい方にとって、やりがいのあるポジションと言えるでしょう。
ケアマネジャーなどの上位資格にもつながる可能性
介護現場のキャリアは、介護福祉士だけにとどまりません。一定の実務経験を積めば、ケアマネジャー(介護支援専門員)をはじめとする上位資格を目指すことも可能です。
実務者研修で学んだ基礎スキルを活かしながら、一歩ずつステップアップしていくことで、より専門性が高く責任のある立場で活躍できるようになります。
【Q&A】実務者研修に関するよくある質問
実務者研修を検討する際に気になる疑問点をまとめました。初めて資格取得を目指す方はもちろん、キャリアアップを考えている方も参考にしてみてください。
江島一孝が研修を担当しているなかでも、このような質問はよく寄せられます。早めに疑問を解消しておくことで、学習の不安を軽減できるでしょう。
- Q実務者研修と初任者研修はどちらを先に取るべき?
- A
- Q合格・修了が難しいと聞くが、学習のコツは?
- A
実務者研修のカリキュラムは広範囲にわたるため、計画的に学習を進めることがポイントです。通信学習で基礎知識を固め、スクーリングでは実技や演習を重点的に習得すると効率が良いでしょう。
過去に受講した方の体験談や模擬問題を参考にすると、つまずきやすいポイントを事前に把握できるため、スムーズに修了を目指しやすくなります。
- Q無資格・未経験でもいきなり実務者研修を受講できる?
- A
無資格・未経験でも実務者研修を受講することは可能です。カリキュラムがやや長期になる点はあるものの、初任者研修で学ぶ内容も網羅できるため、ゼロから体系的に介護を学びたい方にとってはむしろメリットといえます。現場経験がまだ浅い方や、今後本格的に介護業界で働きたい方には一気に知識を習得できるチャンスでもあります。
以下の関連記事も読まれています
- Q資格手当の相場や実際の給与アップはどの程度?
- A
事業所や地域によりますが、月々数千円から数万円単位で資格手当が支給されることもあります。基本給の設定自体が高めにされているケースもあるため、総合的に見ると大きな違いを生む可能性があります。
自身のキャリアや働き方に合わせて、どのくらい給与アップが見込めるかを事前にリサーチしてみると安心です。
【体験談】実務者研修を取得して良かったこと・大変だったこと
実際に研修を受講した方の声は、これから学習を始める人にとって貴重な情報源です。
「仕事との両立が大変だった」という意見は少なくありませんが、「医療的ケアを身につけて利用者のQOL向上に大きく貢献できた」「サービス提供責任者にステップアップできた」などのポジティブな体験談も多く聞かれます。自分のライフスタイルや目標に照らし合わせ、どのように研修を進めるか計画を立てる参考にすると良いでしょう。
まとめ・実務者研修のメリットを総括
実務者研修は、介護福祉士を目指すうえで不可欠な研修であり、医療的ケアを含む幅広い技術を身につける大きなチャンスです。費用や学習時間といったデメリットはあるものの、各種助成制度やスクール選びの工夫で負担を大きく減らすことが可能になります。
また、修了後はサービス提供責任者などの重要ポジションを担いやすくなり、ケアマネジャーなどの上位資格にチャレンジする道も開けます。早めに情報収集し、自分の状況や目標に合った学習スタイルを選ぶことで、実務者研修のメリットを最大限に活かしていただきたいと思います。
筆者自身、年間100名以上の研修生を指導してきましたが、一人ひとりが実務者研修を通して成長し、自信をつけて現場に復帰していく姿を多く見てきました。あなたもぜひ、実務者研修を活用して次のキャリアステップを目指してください。
その他、介護事業所や医療機関などにおいて当校の「事業所内スキルアップ研修」の企画・提案・実施など各事業所用にカスタマイズする研修をプロデュースし、人材確保・育成・定着に向けた一連のプログラムを手掛けている。
