介護施設の災害BCPは、施設内だけで対応する計画では足りません。被害が大きく、職員、電気、水、医薬品が不足したときに、自治体や医療・福祉の支援チームへ状況を伝え、必要な支援を受け入れる「受援」まで決めておく必要があります。
神奈川県は2026年9月7日、9月1日に厚木市内の特別養護老人ホームで実施した神奈川DMATによる高齢者施設支援訓練を公表しました。訓練では、指揮所、通信、被害状況、利用者一覧、診察・トリアージ、在宅酸素・経管栄養・薬の不足、エレベーター停止などを確認しています。
本記事では、この事例を自施設のBCP見直しと訓練へ変換する方法を解説します。
神奈川県の2026年訓練で確認されたこと
| 訓練項目 | 実施内容 | 施設BCPへ反映する点 |
|---|---|---|
| 支援チームの到着 | 神奈川DMAT4チーム16名が施設を訪問 | 受付担当、集合場所、立入範囲を決める |
| 指揮所 | 衛星電話、クロノロジー、TODO、組織図を使用 | 本部スペースと記録様式、代替場所を指定 |
| 施設アセスメント | 被害状況とサービス継続策を整理 | 建物・ライフライン・人員・優先業務を一枚で示す |
| 利用者アセスメント | 利用者一覧、診察、トリアージ | 医療依存度、服薬、移動、意思疎通の情報を更新 |
| 資源不足 | 酸素、経管栄養、薬、電源、エレベーター停止を想定 | 残量と尽きる時刻、代替策、必要支援を数量で伝える |
| 振り返り | 上位本部へ何を頼むかが難しいとの課題 | 「困っている」ではなく、対象・数量・期限・優先度で依頼する |
訓練には、DMATコントローラー3名、神奈川DMAT4チーム計16名、訓練施設職員14名、利用者役を担う他施設職員10名などが参加しました。重要なのは規模をそのまま再現することではありません。外部チームが来たときに、施設側が「誰に会わせ、どこで活動してもらい、何を渡し、何を依頼するか」を説明できるかが論点です。
「自助」のBCPから「受援できるBCP」へ
備蓄、連絡網、職員参集、避難手順は欠かせません。しかし大規模災害では、職員自身も被災し、道路や通信、電気、水道が同時に止まる可能性があります。自施設だけですべてを解決する前提は、職員の抱え込みと支援要請の遅れにつながります。受援とは、単に「助けてください」と連絡することではなく、支援側が安全かつ効率的に動ける情報と環境を準備することです。
受援計画に入れる6項目
- 受援責任者と代行者:施設長が不在でも判断できる順番と連絡方法。
- 受付・活動場所:支援者の受付、駐車、指揮所、休憩、感染対策、立入禁止区域。
- 渡す情報:利用者一覧、医療・介護上の注意、職員配置、建物図、設備、備蓄、協力医療機関。
- 支援ニーズ:人員、飲料水、生活用水、食料、薬、酸素、燃料、通信、搬送を数量と期限で整理。
- 情報更新:誰が何時に確認し、変更履歴をどこへ残すか。
- 終了・復旧:支援を縮小し、通常体制へ戻す条件と引継ぎ。
支援チームは、施設の普段の介護をすべて知っているわけではありません。利用者の不穏、認知症、看取り、食形態、移乗方法、家族との連絡など、施設職員が持つ情報が支援の安全性を左右します。一方、被災直後に詳細な記録を一から作る余裕はありません。平時に更新する情報と、発災後に追記する情報を分けておきます。
外部支援へ渡す「受援情報パック」
| 情報 | 最低限の内容 | 更新担当・頻度の例 |
|---|---|---|
| 施設基本情報 | 定員、現在人数、サービス種別、建物図、出入口、連絡先 | 総務・変更時 |
| 利用者一覧 | 居場所、移動、食事、服薬、医療機器、意思疎通、緊急連絡先 | 看護・介護・毎月、発災時追記 |
| 職員 | 出勤者、負傷者、資格、夜勤者、参集見込み | 本部・発災後随時 |
| 建物・設備 | 安全区域、使用不可区域、電気、水、ガス、通信、昇降機 | 設備担当・変化時 |
| 物資 | 水、食料、薬、酸素、経管栄養、衛生用品、燃料の在庫と消費量 | 各保管担当・定期棚卸し |
| 優先業務 | 食事、排泄、服薬、医療ケア、見守りなど最低継続水準 | BCP委員会・訓練後 |
| 支援依頼票 | 何を、いくつ、いつまで、誰のために、代替可能か | 受援責任者・依頼時 |
| 経過記録 | 時刻、決定、実施、未完了、次の確認時刻 | 記録担当・常時 |
個人情報を含むため、平時から閲覧権限、紙と電子の保管場所、持ち出し、更新、廃棄を決めます。停電や通信障害でも使える紙の最小版と、詳細な電子版を用意し、版番号と更新日を付けると混乱を減らせます。
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災害時情報共有システムをBCPへ組み込む
神奈川県の福祉施設の災害時情報共有システム案内では、避難など命を守る行動の後、迅速な第一報を優先し、被害の有無にかかわらず報告するよう求めています。主な入力内容は、建物・停電・断水・通信障害、利用者と職員の安否・負傷・避難状況、食料・水・資機材・人員などの支援ニーズです。すべてを把握するまで待つのではなく、分かる範囲で第一報を出し、後から更新できます。
ID・パスワードと受信メールを属人化しない
高齢者施設では、介護サービス情報公表制度の対象事業所は既存のID・パスワードを使用します。登録メールは可能な限り施設共有アドレスとし、異動・退職で受信できなくなる状態を避けます。責任者だけでなく、夜間・休日にも複数職員が入力できるよう、BCPへ担当順位、ログイン情報の保管場所、入力手順を記載して訓練します。
神奈川県では、県からの入力指示は政令市・中核市を除く県内市町村の施設へ行い、政令市・中核市では各市から指示されます。所在地によって連絡元が異なるため、横浜市、川崎市、相模原市、横須賀市などの施設は各指定権者の案内も確認してください。

介護福祉士/介護支援専門員
【監修者コメント】
研修先の施設からよく伺うのが、「受援」という言葉は知っていても、実際に何をどう頼めばよいか言語化できていないというお悩みです。
日頃から利用者一覧や物資の残量を、担当者以外が見てもすぐ分かる形にしておくことが、いざという時に外部の支援を無駄なく受け取る一番の近道だと感じています。
情報共有システムのID・パスワードも、責任者一人だけが知っている状態は避け、夜勤帯の職員でも操作できるよう複数人で共有しておくことをお勧めします。
BCPと避難確保計画を混同しない
神奈川県の災害対策ページは、BCPを、重要業務を中断させない、または中断しても短期間で復旧させる方針・体制・手順と説明しています。一方、避難確保計画は、水害・土砂災害等のおそれがあるときに利用者の円滑・迅速な避難を確保する計画です。市町村の地域防災計画に位置付けられた要配慮者利用施設には、関係法令に基づく作成・報告が必要です。
| 計画 | 中心となる問い | 受援との関係 |
|---|---|---|
| 避難確保計画 | 危険が迫ったとき、誰を、いつ、どこへ、どう避難させるか | 避難支援、搬送、避難先との連携を確認 |
| 自然災害BCP | 被災後も、どの介護業務を、どの資源で継続・復旧するか | 不足資源、外部チーム、情報共有、復旧条件を確認 |
| 非常災害対策 | 消防・防災上必要な体制と訓練をどう整えるか | 初動と避難後の支援受入れを接続 |
令和3年度介護報酬改定でBCP策定が義務化され、3年間の経過措置を経て2024年4月から全ての介護事業者で完全義務化されています。未策定の場合は介護報酬の減算対象となり得るため、受援を含む内容へ見直す前に、まず策定状況そのものをご確認ください。
30分でできる受援机上訓練
大規模な合同訓練をすぐに行えなくても、30分の机上訓練から始められます。施設長、看護、介護、総務、設備の担当者を集め、平日昼間ではなく、夜間や休日を想定すると代行者と情報の弱点が見えやすくなります。
- 0〜5分:震度、停電、断水、道路状況、勤務者数を読み上げ、安全確認を始める。
- 5〜10分:利用者一覧から酸素、経管栄養、服薬、移動困難、認知症症状の優先確認を行う。
- 10〜15分:残量と消費量から、何が何時に不足するか計算する。
- 15〜20分:災害時情報共有システムの第一報を模擬入力する。
- 20〜25分:外部チーム到着を伝え、受付、指揮所、情報提供、支援依頼を実演する。
- 25〜30分:「分からなかった」「探すのに時間がかかった」「担当不在で止まった」を3点記録する。
訓練では正解を当てることより、判断に必要な情報へ何分で到達できたかを測ります。「薬が足りない」ではなく、「A薬を服用する利用者が6人、残り2日分、代替薬は未確認」のように伝えられるかを確認します。
訓練後48時間以内にBCPを直す
訓練を実施しても、反省会だけで終わると次回に同じ問題が起きます。訓練後48時間以内に短い会議を開き、課題を「文書」「物」「人」「外部連携」に分類します。修正には責任者と期限を付け、BCP本文、別紙、連絡網、備蓄表、研修資料のどこを直したか記録します。
| 課題例 | 修正 | 完了確認 |
|---|---|---|
| ID・パスワードを担当者しか知らない | 権限を確認し、安全な共有保管と代行順位を設定 | 夜勤者が模擬ログインできる |
| 利用者一覧に医療機器情報がない | 酸素流量、電源、予備、連絡先欄を追加 | 看護責任者が月次確認 |
| 支援依頼が曖昧 | 数量・期限・対象・代替可否の様式を作る | 別担当が読んで依頼内容を再現 |
| 指揮所予定場所が浸水区域 | 第二候補と屋外集合場所を設定 | 図面と掲示を更新 |
| 復旧判断がない | 通常体制へ戻す判断者と条件を追記 | 次回訓練で引継ぎまで実施 |
入所・通所・訪問で受援の重点を変える
| サービス形態 | 優先して確認すること | 受援で伝える情報 |
|---|---|---|
| 入所・居住系 | 24時間の生命維持、夜勤人員、食事・排泄・服薬、医療機器、垂直移動 | 利用者数、要介護度だけでなく、酸素・経管栄養・看取り・移動介助の人数 |
| 通所系 | 営業中の発災、送迎中車両、帰宅可否、家族連絡、臨時休業 | 施設内外の利用者位置、送迎車、帰宅困難者、受入れ継続の可否 |
| 訪問系 | 職員と利用者の安否、訪問優先順位、道路・燃料・通信、代替事業者 | 独居、医療依存、家族支援の有無、訪問が途絶えると危険な利用者 |
同じ法人でも、入所施設のBCPを通所・訪問へコピーするだけでは動きません。併設事業所では、車両、発電機、看護職、備蓄をどのサービスが優先するかも事前に決めます。発災時は各サービスの報告を行う必要があるため、法人本部がまとめる情報と事業所ごとに入力する情報を分けて訓練してください。
公開後すぐに使える見直しチェックリスト
- 受援責任者と代行者が役職ではなく氏名・連絡方法まで決まっている
- 支援者の受付、駐車、指揮所、休憩、立入禁止区域が図面にある
- 利用者の医療・介護情報を停電時にも取り出せる
- 水・食料・薬・酸素・燃料を「残数」と「尽きる時刻」で示せる
- 災害時情報共有システムのメール、ID、パスワード、操作手順を複数人が確認できる
- 個人情報の共有範囲、紙・電子の保管、持ち出しを決めている
- 訓練後48時間以内に修正担当と期限を決める
- 復旧して外部支援を終了するときの判断と引継ぎがある
FAQ|介護施設の災害BCPと受援
- Q1.受援計画はBCPと別の計画にする必要がありますか?
- A
別冊でもBCP内の章でも構いませんが、発動基準、責任者、情報、場所、支援依頼、終了条件がBCPの初動・優先業務とつながっていることが重要です。
- Q2.災害時情報共有システムは被害があるときだけ入力しますか?
- A
神奈川県は、被害の有無にかかわらず報告し、「被害なし」も重要な情報と案内しています。対象や例外は所在地・施設区分ごとの案内を確認してください。
- Q3.第一報はすべて分かってから送りますか?
- A
避難など命を守る行動を優先した後、把握している範囲で迅速に第一報を出し、後から更新します。建物、ライフライン、安否、避難、支援ニーズを簡潔に整理します。
- Q4.BCP訓練は避難訓練と同時にできますか?
- A
一連のシナリオで行うことは実務的ですが、避難後の優先業務、情報共有、支援要請、復旧まで確認し、各基準が求める内容と回数を満たすよう記録してください。サービス種別の指定基準と指定権者へ確認が必要です。
- Q5.小規模事業所でも受援訓練は必要ですか?
- A
小規模ほど担当者不在や通信停止で業務が止まりやすいため、短時間の机上訓練が有効です。代行者、第一報、利用者の優先支援、外部への依頼を30分で確認するところから始められます。
まとめ|支援を受ける準備までが、介護施設の業務継続
神奈川県が2026年9月に公表した高齢者施設・DMAT訓練では、指揮所、通信、被害・利用者の評価、物資・医療ニーズ、上位本部への支援要請が確認されました。施設側にとっての教訓は、自力対応だけでなく、外部チームへ必要情報を渡し、具体的に支援を頼めるBCPへ見直すことです。
まず受援責任者、活動場所、利用者情報、資源残量、支援依頼票、災害時情報共有システムを整理し、30分の机上訓練を行いましょう。訓練後48時間以内に、迷った場面をBCPへ反映します。
受援まで含むBCP訓練を設計しませんか
参照元
- 神奈川県「令和8年度ビッグレスキューかながわでの高齢者施設支援訓練」(2026年9月7日更新、2026年9月10日確認)
- 神奈川県「福祉施設の災害時情報共有システムについて」(2026年7月15日更新、2026年9月10日確認)
- 神奈川県「社会福祉施設のための災害対策」(2026年7月30日更新、2026年9月10日確認)
- 厚生労働省「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」(2026年9月10日確認)
湘南国際アカデミーでは初任者研修・実務者研修・介護福祉士受験対策の講師を務めるほか、受験対策テキストの執筆も担当。
介護技能実習評価試験評価者として外国人介護士の受け入れ支援、事業所向けスキルアップ研修のプロデュースなど、人材確保・育成・定着に向けた幅広い活動を展開している。

