老人ホームでは「常に人が足りない」「採用してもすぐ辞めてしまう」という悩みを抱える施設が増えています。
本記事では、データで見える現状を整理したうえで、人手不足が深刻化する原因と施設運営への影響、そして現場で実行しやすい対策を体系的にまとめます。
あわせて「2025年問題」によって今後何が起きるのかを踏まえ、施設として今から備えるための視点をご紹介します。
(参照:厚生労働省「介護人材確保の現状について」)
(参照:厚生労働省「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」)
老人ホームの人手不足の現状とデータ
介護業界の人手不足がどの程度深刻なのかを、代表的な統計データから確認します。
介護人材不足を正しく把握するには、現場の感覚だけでなく、求人と求職のバランスを示す指標で確認することが重要です。代表的な指標が「有効求人倍率」で、数値が高いほど「働きたい人1人に対して求人が多い」状態を表します。介護関係職種の有効求人倍率は全職業平均の約3.4倍(令和7年3月・全国平均3.97倍 対 全職業1.16倍)と、慢性的に採用が難しい構造が続いています。
さらに、特別養護老人ホームを対象にした調査(独立行政法人福祉医療機構・2025年度)では、「人材が不足している」と回答した施設が64.0%にのぼり、不足を感じている施設の平均不足人員数は5.5人と前年度比で増加しています。施設数は増えているのに、働き手が増えていない需給ギャップが、慢性的な欠員として現れています。
| 指標 | 数値 | 出典 |
|---|---|---|
| 介護関係職種の有効求人倍率(全国平均) | 約3.97倍(全職業平均1.16倍) | 厚生労働省「職業安定業務統計」令和7年3月 |
| 2025年度に必要な追加介護職員数 | 約32万人 | 厚生労働省 第9期介護保険事業計画 |
| 2040年度に必要な追加介護職員数 | 約57万人 | 同上 |
| 特養で「人材不足」と感じる施設の割合 | 64.0% | 独立行政法人福祉医療機構(2025年度調査) |
| 不足を感じている施設の平均不足人員数 | 5.5人(前年度比+1.9人) | 同上 |
介護職の有効求人倍率と将来推計
介護職の有効求人倍率が全産業平均の3倍以上で推移していることは、「求人を出しても応募者が集まりにくい」という状況を端的に示しています。求職者1人を複数の事業所が取り合う形になり、採用コストの上昇や人材紹介会社への依存が高まりやすくなります。
将来推計では、2025年度に約32万人、2040年度に約57万人もの介護職員が不足すると見込まれています。高齢者が増え続ける一方で、生産年齢人口は減少を続けるため、採用努力だけで不足を埋める発想には構造的な限界があります。今後は採用と並行して、離職を減らす仕組みと業務を効率化して少人数でも回る体制づくりが前提になります。
2025年問題と今後の見通し
2025年問題とは、団塊の世代が75歳以上(後期高齢者)となり、医療と介護の需要が一段と増える節目を指します。75歳以上になると要介護認定率が急上昇するため、老人ホームでは重度化した入居者や認知症対応の比重が高まり、同じ定員でも必要なケアの密度が増します。
一方で、働き手の母数はなかなか増えません。都市部では他産業との採用競争が激化し、地方ではそもそもの人口減少が直撃します。今から備えるなら、採用チャネルを広げるだけでなく、離職を減らす職場づくりとICT・ロボット等による省力化投資を先行させることが重要です。需要増が顕在化してから動くと、派遣依存や採用コスト増で打ち手が高くつきます。
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老人ホームの人手不足が深刻化する3つの背景
人手不足は応募が来ないだけでなく、人口構造・待遇・職場環境という3つの要因が重なって起きます。
老人ホームの人手不足は、需要と供給の両側で同時に圧力がかかっているのが特徴です。利用者の重度化でケア量が増える一方、働き手の総数は減り、採用競争は激しくなります。さらに、待遇やイメージが採用の入口を狭め、職場環境が離職を押し上げると、欠員が欠員を呼ぶ悪循環に入ります。
①少子高齢化による需給ギャップ
少子高齢化は介護人材不足の根本要因です。要介護者が増えて介護需要が伸びる一方で、生産年齢人口が減り、介護以外の業界でも人手不足が起きるため、採用市場での競合が増します。特に75歳以上の増加局面では、見守りや生活支援だけでなく、認知症対応・医療的ケアとの連携など、ケアの量と質が同時に求められます。結果として、同じ人数でも現場負担が増え「人が足りない」と感じやすくなります。
この需給ギャップは短期で逆転しにくいため、施設は採用だけに頼らず、ケア設計や業務分担を見直して需要側の増分を吸収する発想が必要です。
②低賃金・重労働による採用難
介護の仕事は、身体介助や夜勤、緊急対応など負担が大きい一方で、他産業と比較して賃金が見劣りしやすいと言われます。このギャップが応募の段階で敬遠される理由になります。処遇改善加算の拡充で賃金改善は進んでいますが、求職者に「届いている」かどうかは別の問題です。求人票で総額が分かりにくい、手当の条件が複雑、キャリアアップ後の将来像が見えないと、施設の魅力として伝わりません。
採用難の本質は給与水準だけでなく、負担の重さに対して納得できる説明や見通しが欠ける点にもあります。仕事のやりがい・成長・評価の仕組みをセットで示すことが応募増につながります。
③人間関係・労働環境による離職
離職理由として挙がりやすいのは、人間関係のストレス、上司や法人方針への不満、相談しにくさ、シフトの融通が利かないことなどです。仕事内容そのものより、職場の運営やコミュニケーションの質が引き金になるケースも少なくありません。人手不足の状態で離職が起きると、残った職員の業務が増え、教育も手薄になり、さらに離職が進むという悪循環に入りやすくなります。施設側は離職を個人の問題として片付けず、構造として捉えることが重要です。

介護福祉士・介護支援専門員
【監修者コメント】
現場で長年、介護職員の育成に携わってきた経験から申し上げますと、早期離職の多くは「孤立感」から始まります。入職後の最初の1〜3か月に「自分はここでやっていけるか」という不安が積み重なると、そのまま離職につながりやすい。湘南国際アカデミーでは初任者研修・実務者研修の段階から、職場への帰属意識を育む関わりを意識しています。施設側も「育成期間」として最初の3か月を特別に設計することが、定着率を大きく変えると思います。(参照:厚生労働省「介護人材確保の現状について」)
人手不足が老人ホームに与える3つの影響
人員不足は現場の忙しさにとどまらず、サービス品質・職員の安全・施設経営のすべてに波及します。
①サービス低下と事故リスクの上昇
人手が足りないと見守りが薄くなり、転倒や誤嚥などの事故リスクが上がります。ケアのタイミングが遅れる、排泄や食事の介助が急ぎ作業になるといった変化も起きやすくなります。介護記録の抜け漏れや申し送り不足による情報断絶も重大で、利用者の小さな体調変化を拾えなくなると、医療連携が後手に回ることがあります。事故やヒヤリハットが増えると家族満足度にも影響し、苦情対応や再発防止の会議でさらに現場時間が削られる二次的負担も発生します。
②職員の過重労働と離職の連鎖
欠員があると残業が増え、休憩が取りにくくなり、夜勤回数が増えることがあります。疲労が蓄積すると集中力が落ち、ミスが増え、精神的にも追い詰められやすくなります。特に新人や中途入職者は、教育が手薄だと不安を抱えたまま現場に立つことになり、早期離職につながりやすくなります。こうして離職が起きるとさらに現場が回らなくなり、残った職員の負担が増え、離職の連鎖が起きます。この連鎖を断ち切るには、業務量を下げる施策と支え合える体制づくりが欠かせません。
③経営悪化と受け入れ制限・閉鎖リスク
人手不足は採用コストの増大を招きます。求人広告費、人材紹介手数料、派遣依存による単価上昇が重なると収支を圧迫します。配置基準を満たせないと新規受け入れを止めざるを得ず、稼働率が下がります。加算の要件を満たしにくくなると本来得られる介護報酬が取りこぼされ、経営体力が削られます。悪化が進むとサービス縮小やフロア閉鎖、最終的には事業撤退のリスクも現実になります。人材確保策をコストではなく、稼働率とリスク低減を守る投資として捉える視点が重要です。
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老人ホームの人手不足を解消する6つの対策
解決策は採用強化だけではなく、離職を減らし、業務を効率化し、限られた人員でも回る体制を作ることが要点です。
人手不足対策は採用施策を増やすだけだと費用対効果が合わないことが多いです。先に離職を抑え、業務を整理して「今いる人が続けられる職場」にするほど、採用も決まりやすくなります。以下では現場で実行しやすい対策を6つに整理します。単体ではなく組み合わせて回す設計が成功の鍵です。
| 原因 | 対策 |
|---|---|
| 少子高齢化による需給ギャップ | 多様な人材採用・外国人介護人材の活用 |
| 低賃金・重労働 | 処遇改善加算の積極取得・資格取得支援による処遇アップ |
| 人間関係・職場環境 | 1on1面談の定期実施・ハラスメント対策・相談窓口の整備 |
| 業務の非効率(記録・事務) | ICT導入・音声入力・クラウド型介護ソフトの活用 |
| 身体負担(腰痛など) | 移乗支援機器・見守りセンサーなど介護ロボット活用 |
| 採用母集団の不足 | 求人媒体の複線化・外国人材受け入れ・シニア・主婦層の活用 |
①職場環境とコミュニケーションの改善
定着率を上げる最短ルートは、人間関係の摩擦を減らし、困ったときに相談できる状態を作ることです。定期的な1on1で業務負荷と悩みを早期に拾い、エスカレーション先を明確にします。ハラスメント対策や相談窓口の整備は、問題が起きてからの対応ではなく、起きにくくする予防設計として重要です。評価と感謝を可視化する仕組みも効果的で、成果が見えにくい介護では行動基準とフィードバックがあるだけで心理的安全性が上がり、離職の芽を早い段階で摘めます。
②業務改善とICT導入による効率化
人手不足の施設ほど、介護以外の間接業務が膨らみやすい傾向があります。介護記録の電子化、音声入力、タブレット入力、シフト作成支援、インカム、請求業務の省力化などで、まずは事務時間を削ることが現実的です。導入は現状の業務棚卸しから始め、試験導入で小さく検証し、現場に合う運用に調整してから定着させる流れが失敗しにくいです。ICTの本質はシステム導入ではなく運用設計です。誰がいつ入力するか、二重記録をどう潰すか、トラブル時に紙へ戻せるかまで決めると、現場の抵抗感が下がり効果が出やすくなります。
③介護ロボット・福祉用具の活用
介護ロボットや福祉用具は人を置き換えるものではなく、身体負担と事故リスクを下げるための道具です。見守りセンサーで夜間巡回を最適化し、移乗支援機器で腰痛リスクを下げ、排泄予測・支援機器で対応回数の偏りを減らすといった使い方が代表例です。特に離床・転倒の兆候を早めに検知できれば、重大事故を未然に防ぎやすくなります。成功のポイントは対象者の選定と記録連携です。負担が大きい場面に絞って効果を出し、得られたデータをケア計画や申し送りに活かすと投資が回収しやすくなります。
④多様な人材の採用と配置
採用母集団を広げるには、介護資格者だけに絞らないことが重要です。介護助手、アクティブシニア、短時間勤務希望者、復職者、未経験者など、多様な層が働ける設計にすると応募の入口が増えます。そのためには業務の切り分けが欠かせません。専門職が専門業務に集中できるよう、清掃・配膳・シーツ交換・見守り補助などを役割定義し、無理なく任せられる業務から配置します。また、オンボーディング設計が定着を左右します。教育担当を決め、最初の数週間で何ができればよいかを明確にし、評価より支援を優先する期間を作ると未経験者でも戦力化しやすくなります。
⑤外国人介護人材の受け入れ
外国人介護人材の受け入れは、採用ルートを広げ、一定期間の就労見込みを持ちやすい点がメリットです。制度としてはEPA、技能実習、特定技能などがあり、施設の状況に応じて選択肢が変わります。ただし日本語支援・生活支援・文化差への配慮・指導体制・手続き負担が整っていないと、本人が力を発揮できずミスマッチになります。受け入れは採用施策というより「育成と定着のプロジェクト」として捉えるべきです。定着には学習支援とメンター配置が有効で、業務用語や記録表現を学べる時間を確保し相談役を明確にすることで、不安の蓄積を防げます。
⑥教育・資格取得支援とキャリアアップ
資格取得支援は、スキル向上と待遇改善をつなげやすく、定着施策として効果が出やすい分野です。初任者研修・実務者研修・介護福祉士などの費用補助や通学配慮、研修機会の提供があると将来像が描けて離職しにくくなります。施設側にも、スキルが上がるほどケアの質が安定し、事故やクレームのリスクが下がり、加算算定など経営面でもプラスになるメリットがあります。
☑介護職員の入口となる介護職員初任者研修(130時間)
☑介護福祉士受験に必須の実務者研修(最短1ヶ月〜)
☑合格率94.7%(受験対策講座利用者・2026年度)介護福祉士受験対策講座
☑神奈川・首都圏11校舎+サテライト校(東京・千葉・埼玉・山梨・静岡)で順次開講予定

介護福祉士・介護支援専門員
【監修者コメント】
湘南国際アカデミーの介護福祉士受験対策講座では、受講者の合格率が93.4%(2026年度・受験対策講座利用者)と、全国平均の70.1%を上回っています。
資格取得は報酬アップにつながるだけでなく「専門職としての自信」を持てることで定着率にも好影響を与えます。施設として職員の資格取得を支援することは、人材育成投資の中でも最も費用対効果が高い選択の一つだと思います。
これまで神奈川を中心に46,000名以上の修了生を輩出してきた実績を、今後は首都圏のサテライト校にも広げていきます。
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よくある質問(FAQ)
- Q1.老人ホームの人手不足はいつ解消されますか?
- A
少子高齢化が続く日本では、短期間での解消は難しい状況です。厚生労働省の推計では2040年度に介護職員が約57万人不足するとされており、採用強化だけでなく離職率低下・ICT導入・多様な人材活用を組み合わせた継続的な取り組みが必要です。施設ごとの工夫によって、不足の深刻度には大きな差が生まれています。
- Q2.人手不足が事故やサービス低下につながるのはなぜですか?
- A
人員が不足すると見守りの頻度が下がり、転倒・誤嚥などのリスクが高まります。記録の抜け漏れや申し送り不足も起きやすくなり、体調変化の発見が遅れることがあります。また職員の過重労働が新人教育の時間を奪い、ケアの質にも波及します。サービス品質の維持には、適切な人員配置と業務効率化の両立が不可欠です。
- Q3.老人ホームの人手不足対策で、すぐに効果が出る施策はありますか?
- A
短期で取り組みやすいのは、ICTによる記録業務の効率化と、1on1面談など相談しやすい環境づくりです。業務の棚卸しをして非効率な間接業務を減らすだけで、在籍職員の負担感が下がり、定着改善につながることがあります。採用施策よりも先に「今いる職員が辞めにくい職場」にすることが、中長期で最もコスト効果の高い対策です。
- Q4.外国人介護人材の受け入れは人手不足解消に有効ですか?
- A
特定技能(介護)は更新制で長期就労が可能なため、採用ルートの一つとして有効です。ただし日本語支援・生活サポート・教育体制の整備がなければ定着しにくいため、「育成プロジェクト」として丁寧に設計する必要があります。受け入れから採用まで最短でも6〜8か月を要する点を踏まえ、早めに準備を始めることが重要です。
- Q5.介護職員の資格取得支援は施設にどんなメリットがありますか?
- A
資格取得支援は職員のスキルアップと定着を同時に促す効果があります。介護福祉士の取得により介護報酬の加算算定がしやすくなるほか、職員自身がキャリアの見通しを持てることで離職リスクが下がります。湘南国際アカデミーでは46,000名以上の修了生を輩出した実績があり、施設向けの資格取得支援プログラムについてもご相談いただけます。
まとめ
老人ホームの人手不足は、人口構造と業界特性が重なって起きるため、単発の採用施策では解決しにくい課題です。本記事のポイントを整理します。
☑介護関係職種の有効求人倍率は全職業平均の約3倍以上で推移し、慢性的な採用難が続いている
☑2040年度には介護職員が約57万人不足すると推計されており、短期解決は難しい構造問題
☑深刻化の背景は①少子高齢化による需給ギャップ②低賃金・重労働③人間関係・離職連鎖の3要因
☑影響はサービス品質低下・事故リスク上昇・職員の過重労働・経営悪化にまで波及する
☑対策は「職場環境改善・ICT化・ロボット活用・多様な採用・外国人材受け入れ・資格取得支援」を組み合わせることが有効
☑採用強化より先に「今いる職員が続けられる職場づくり」を優先することが定着率改善の近道
老人ホームの人手不足は、少子高齢化で需給ギャップが広がり、待遇やイメージが採用の入口を狭め、職場環境が離職を押し上げることで慢性化しやすくなります。影響はサービス品質や事故リスクだけでなく、過重労働による離職連鎖、採用費や稼働率低下による経営悪化まで波及します。
対策は、職場環境改善で定着を高め、ICTや福祉用具で業務を減らし、多様な人材・外国人材の受け入れで採用母集団を広げ、教育支援でキャリアを作ることが基本です。2025年問題を前に、単発ではなく複数施策を組み合わせ、運用まで含めて継続改善することが現実的で再現性の高い解決策になります。
湘南国際アカデミーでは初任者研修・実務者研修・介護福祉士受験対策の講師を務めるほか、受験対策テキストの執筆も担当。
介護技能実習評価試験評価者として外国人介護士の受け入れ支援、事業所向けスキルアップ研修のプロデュースなど、人材確保・育成・定着に向けた幅広い活動を展開している。


