介護人材不足が続く中、技能実習制度を活用してベトナム人材を受け入れる動きが広がっています。一方で、制度趣旨の理解、要件確認、監理団体・送り出し機関の選定、配属までの手続きなど、押さえるべき論点は多岐にわたります。
本記事では、介護技能実習制度の基本から、ベトナム人材が増えている背景、受け入れ側・実習生側の要件、業務範囲の時間配分、定着支援までを一つの流れで整理します。初めて受け入れを検討する事業者が、判断と準備を進められることを目的に解説します。
当記事は以下のデータを参照して執筆しております。
(参照:厚生労働省「外国人介護人材の受入れについて」)
(参照:公益社団法人 全国老人福祉施設協議会「外国人介護人材受入れ制度早わかりガイド2025」)
介護技能実習制度の基本と制度趣旨
介護職種で技能実習生を受け入れる際は、制度の目的(技能移転)と運用上の原則を理解することが出発点になります。
介護分野の技能実習は、人手不足の穴埋めが目的ではなく、日本の介護の技能や考え方を学び、帰国後に母国で活かしてもらうための制度です。この前提がぶれると、現場では単なる労働力として扱う設計になりやすく、監査対応や定着にも悪影響が出ます。
介護は利用者の身体に直接触れる業務が多く、サービス品質と安全確保が最優先です。そのため制度上も、業務範囲の明確化、日本語力の確保、評価と指導の仕組み、実習体制、同等処遇、監理の徹底が強く求められます。
実務上は、実習計画を中心に受け入れ全体が組み立てられます。どの技能を、どの順番で、誰が、どの頻度で指導し、どう評価するかまで言語化しておくと、配属後の現場任せを防ぎ、実習生の成長と施設の安定運営を両立しやすくなります。
【重要】2027年より技能実習制度は育成就労制度に移行予定
令和6年6月に成立した改正法により、技能実習制度は原則3年以内(2027年予定)に育成就労制度へ移行します。育成就労制度では、3年間の就労を通じて特定技能1号水準の技能育成を目的とし、一定条件下での本人意向による転籍も認められるなど制度の性格が変わります。現在技能実習での受け入れを検討する場合は、将来の制度移行を見据えたキャリア設計も視野に入れてください。
4制度の全体比較については以下の記事もご覧ください
ベトナム人技能実習生が増えている背景
国別動向や制度改定、政府間連携といった複合要因により、技能実習の主要な送り出し国としてベトナムの存在感が高まっています。
背景の一つは、制度側の変化です。介護職種が技能実習の対象に加わり、実習期間が最長5年まで見込める運用になったことで、本人にとって学習投資が回収しやすくなり、送り出しも増えました。
国別動向としては、以前中心だった国からの来日が相対的に減り、受け入れ先が新たな主要国を探す流れが生まれました。その中でベトナムは送り出し体制が整い、候補者数も多く、介護分野でも採用の選択肢として現実的になっています。
もう一つは政府間の枠組みや連携です。ベトナム側の公的機関の推薦や手続きが前提となるため、制度運用が進むほど、情報や手続きが標準化されやすくなります。受け入れ側にとっては、手続きが読みやすい国ほど計画採用がしやすく、結果としてベトナム人材の比率が高まりやすい構造があります。
ベトナム人の特徴と介護現場での相性
文化的背景や学習特性により、ベトナム人材は介護現場で強みを発揮しやすい一方、配慮点もあります。下表で特徴と現場での活かし方を整理します。
| 特徴 | 介護現場での強み・留意点 | 受け入れ側の対応ポイント |
|---|---|---|
| まじめ・学習の吸収力が高い | 手順を言語化して教えると標準化されたケアを早く習得しやすい | OJTのチェックリスト化・段階的な業務割り当て |
| 年長者・目上の人を敬う文化 | 高齢者への敬意が自然に出やすく、利用者との関係構築がしやすい | 介護観のすり合わせを入職時に実施 |
| 日本語の読み書き習得が比較的早い | 介護記録・専門用語の習得が早い傾向 | 会話より記録・報告を優先した日本語支援 |
| 発音・聞き取りでつまずきやすい | 申し送りや利用者の訴えの聞き取りでヒヤリハットが起きやすい | ゆっくり話す・復唱確認・指差し確認の徹底 |
| 家族行事・家庭事情を優先する価値観 | 急な相談・休暇希望が発生しやすい | 休暇ルールと相談窓口を入職時に明文化 |
現場で評価されやすい点は、まじめさや学習の吸収力、年長者を敬う文化が介護の価値観と相性が良いことです。新人教育の型を用意し、手順を言語化して教えると、標準化されたケアを早い段階で身につけやすい傾向があります。
配慮点として、家族行事や家庭事情を大事にする価値観が強い場合があり、急な相談が起きやすいことです。これは優先順位の違いであり、良し悪しではありません。事前に休暇ルールと相談窓口を明確にし、早めに調整できる運用にしておくと、現場の不満や本人の不安を小さくできます。
介護技能実習生の要件(実習生側)
介護分野では、技能実習制度の一般要件に加えて、日本語力や職歴など追加要件の確認が欠かせません。
日本語能力要件
介護職種では段階ごとに日本語の水準が求められます。第1号技能実習(1年目)では日本語能力試験N4相当、第2号技能実習(2〜3年目)ではN3相当が必要です。
参照:厚生労働省「外国人介護人材の受入れについて」
| 技能実習の段階 | 求められる日本語能力 | 主な確認方法 |
|---|---|---|
| 第1号技能実習(1年目) | N4相当以上 | JLPT N4合格、またはJ.TEST・NAT-TESTで同等認定 |
| 第2号技能実習(2〜3年目) | N3相当以上 | JLPT N3合格、または同等試験合格 |
重要なのは試験名よりも、「申し送りが理解できるか」「緊急時に報告できるか」という実務的なコミュニケーション能力です。面接時にロールプレイや状況質問を入れると判断精度が上がります。入国後講習や配属後の日本語支援は福利厚生ではなく事故防止策として設計してください。
同等業務従事経験(職歴)要件
介護職種では、母国での介護・看護に近い業務経験や関連資格が職歴要件として求められます。以下のいずれかが該当し得ます。
- 外国における高齢者・障害者の介護施設や居宅等で日常生活上の世話・機能訓練・療養上の世話に従事した経験
- 外国における看護課程の修了または看護師資格の保有
- 外国政府による介護士認定等を受けた者
- 教育機関において同種の分野に関する教育課程を修了している場合
書類が揃っていても実態が異なることがあります。担当した業務内容、介助の範囲、記録の経験などを具体的に聞き、仕事内容の認識を合わせることでミスマッチを防げます。経験の有無よりも「介護観のすり合わせ」が定着の鍵です。
受け入れ事業者(実習実施者)の要件
受け入れ側には、指導体制・施設要件・人数枠・法令順守など、実習を適正に行うための具体的な要件が求められます。
実習体制の確保と技能実習指導員の要件
体制の基本は、技能実習責任者・技能実習指導員・生活指導員の3役を配置し、それぞれの役割を分けることです。技能実習指導員は介護職として5年以上の経験が必要で、かつ以下の資格等のうち1つを保有する者を1名以上選任する必要があります。
- 介護福祉士登録証
- 看護師または准看護師の免許証
- 実務者研修修了証明書(実務者研修修了者は8年の経験が必要)
また、技能実習生5名につき1名以上の技能実習指導員を選任することが求められます。

介護福祉士
介護技能実習評価試験評価者
介護技能実習評価試験評価者として受け入れ機関への評価業務に携わっています。指導員が「名目だけ」になっている事業所は、評価時に指導実績の記録不足が指摘されやすく、実習生の技術習得にも遅れが出ます。勤務表に指導時間を明示し、評価項目ごとに教える順番を決めておくだけで、現場と制度の整合性が大きく改善されます。(参照:厚生労働省「外国人介護人材の受入れについて」)
日本人との同等処遇と労務管理のポイント
同等処遇は「基本給が同じならよい」という話ではなく、同じ業務をする日本人職員と比べて、手当・昇給・控除・残業代・深夜割増などを含めて不利になっていないかが問われます。賃金規程に沿って説明できる形にし、例外運用を減らすことが安全です。
労務管理で確認されやすいのは、雇用契約書と労働条件通知、賃金台帳、勤怠記録、時間外申請の整合性です。特に介護現場は申し送りや記録でサービス残業が起きやすいため、記録時間も労働時間として扱う運用を徹底することが重要です。
技能実習で従事できる介護業務範囲と時間配分
介護技能実習では、従事可能な業務が区分され、時間配分のルールがあります。現場の業務設計に落とし込む際の基準として整理します。
参照:厚生労働省「介護職種の技能実習に関する要件」
| 業務区分 | 時間配分の目安 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 必須業務(身体介護) | 全時間の1/2以上 | 整容・移動・食事・入浴・排泄の各介助、利用者特性に応じた対応(認知症・障害等は3号のみ) |
| 安全衛生業務 | 各区分の1/10以上 | 腰痛予防・福祉用具の使用・事故防止教育・緊急時対応 |
| 関連業務 | 全時間の1/2以下 | 清掃・洗濯・配下膳・ベッドメイキング・記録・申し送り・機能訓練補助・レクリエーション |
| 周辺業務 | 全時間の1/3以下 | 掲示物管理・福祉用具の点検・物品補充等 |
業務設計のコツは、実習段階ごとに任せる範囲を広げることです。最初は安全と基本動作の徹底、次に標準的な身体介護の反復、最後に利用者特性に応じた応用という順にすると、事故リスクを抑えながら戦力化できます。
現場の忙しさから関連業務ばかりにならないよう、週単位で身体介護の経験が確保できているかを点検します。指導員が記録を見て、経験が偏ったら翌週のシフトや担当を調整する仕組みを作ると、制度適合と育成が両立します。
なお、訪問系サービスへの従事は2025年4月1日(技能実習)より、介護職員初任者研修課程等の修了と実務経験1年以上等の条件を満たす場合に限り認められるようになりました。(参照:厚生労働省「外国人介護人材の訪問系サービスへの従事について」)
訪問介護における外国人受け入れの詳細は以下の記事もご覧ください
監理団体・送り出し機関の選び方
受け入れの成否は、監理団体とベトナム側送り出し機関の品質に大きく左右されるため、比較観点を持って選定することが重要です。
監理団体は手続き代行だけでなく、監査・訪問指導、トラブル時の調整、生活支援の設計など、受け入れ品質を左右する役割を担います。送り出し機関は候補者の募集・教育・書類整備を担うため、入口の質がそのまま現場の負担になります。
選定では以下の点を確認します。
- 介護職種の支援実績と指導内容の具体性
- 日本語教育のカリキュラム(入国前・入国後)
- 入国後のフォロー体制・通訳体制
- トラブル時の対応スピード
- 候補者への費用負担の透明性(送り出し機関への手数料構造)
重要な見極めは、候補者への説明の透明性です。本人負担費用や契約内容、来日前の教育内容が曖昧だと、来日後に不信感が生まれます。面接同席時に説明の仕方を観察し、書面の言語(日本語・ベトナム語)と理解確認の手順まで確認すると、リスクを下げられます。
採用から配属までの流れ
募集・面接から各種申請、入国後講習、配属・OJT開始までの全体像を把握すると、スケジュール遅延や手戻りを減らせます。
| ステップ | 主な内容 | 目安期間 |
|---|---|---|
| 1. 受け入れ計画策定 | 要件確認・指導員選任・実習計画の立案 | 受け入れ決定後すぐ |
| 2. 候補者募集・面接 | 監理団体・送り出し機関を通じた選考・日本語力確認 | 入国の7〜10か月前 |
| 3. 書類整備・計画認定申請 | 職歴証明・資格書類の確認、技能実習計画の認定申請 | 入国の5〜7か月前 |
| 4. 在留資格申請 | 出入国在留管理局への申請 | 入国の4〜5か月前 |
| 5. 入国・入国後講習 | 日本語学習(240時間、N3程度取得者は80時間)+介護導入講習(42時間) | 入国直後1〜2か月 |
| 6. 配属・OJT開始 | 段階的な業務割り当て・指導記録の整備・1年目試験の準備 | 講習修了後 |
遅延が起きやすいのは、職歴証明や資格書類の不備、日本語要件の確認不足、実習計画の作り込み不足です。書類は早めに仮チェックし、現場側は実習計画に沿った指導担当者と指導時間を確保しておくと、申請と現場準備が並行して進みます。
配属直後は、仕事の難しさより生活面でつまずくことが多いです。住居・通勤・口座・携帯・医療・ゴミ出しなどの生活導線を整え、困ったときにすぐ相談できる窓口を決めておくと、欠勤やメンタル不調を防ぎやすくなります。
受け入れ時の注意点と定着支援
配属後の定着は、言語・文化・生活面の支援と、育成計画・評価・相談体制の整備で大きく改善します。
注意点の第一は、配属初期の事故リスク管理です。日本語が十分でも、介護は専門用語と暗黙知が多いため、最初は介助手順の標準化、ダブルチェック、危険場面の単独対応禁止を徹底します。ミスが起きたときに個人を責める文化になると報告が止まり、重大事故につながるため、仕組みで防ぐ姿勢が重要です。
定着支援は生活の安定が土台です。金銭管理・医療機関の受診・行政手続き・近隣トラブルの予防など、生活課題は離職理由になりやすいので、生活指導員と監理団体が役割分担し、支援内容をチェックリスト化すると抜け漏れが減ります。
育成面では、実習計画を現場評価に接続することが鍵です。月次で習得項目を見える化し、できた点を言葉で承認し、次の課題を一つに絞って渡すと成長が継続します。相談窓口は上司一択にせず、複線化して早期に小さな不安を拾える体制にすると離職を防ぎやすくなります。
長期定着の観点では、技能実習修了後のキャリアパスを入職時に共有することが有効です。技能実習修了後に特定技能1号へ移行し(3年以上の技能実習を良好に修了した者は試験免除)、さらに介護福祉士を取得すれば在留資格「介護」(更新制限なし)への移行も可能です。このキャリアパスを早い段階で本人と共有することが、学習意欲と長期定着に直結します。

介護福祉士
介護技能実習評価試験評価者
技能実習修了後に介護福祉士を取得すると在留資格「介護」への移行が可能になり、長期定着に直結します。初任者研修・実務者研修を入職後にカリキュラム化することが、育成と定着の最短ルートです。(参照:厚生労働省「外国人介護人材の受入れについて」)
外国人介護士の国家資格合格率71.2%達成について
外国人介護士への日本語教育・介護教育の詳細は以下のページをご覧ください
よくある質問
- Q1.ベトナム人介護技能実習生の日本語能力は入国時にどのくらい必要ですか?
- A
第1号技能実習(1年目)ではN4相当、第2号技能実習(2〜3年目)ではN3相当が求められます。ただし試験合格だけでなく、「申し送りが理解できるか」「緊急時に報告できるか」という実務的なコミュニケーション能力の確認も配属前に行うことを推奨します。介護記録や専門用語の習得を優先した日本語支援を、入国後講習から計画的に進めることが事故防止にもつながります。
- Q2.技能実習生に夜勤をさせることはできますか?
- A
条件付きで可能ですが、業界ガイドラインでは夜勤業務は2年目以降に限定することが努力義務とされています。また夜勤時は「技能実習生以外の介護職員と複数名で業務を行うこと」が求められます。夜勤開始の基準(例:配属から何か月後、どの技能習得を確認してから)を実習計画と現場手順書に明文化し、例外運用を作らないことが事故防止の鍵です。
- Q3.技能実習生が途中で帰国してしまうリスクを減らすにはどうすればよいですか?
- A
離職・失踪の主な原因は「生活面の孤立」「職場での理解不足」「将来の見通しが持てない不安」の3つです。対策として、配属初期の生活基盤整備(住居・携帯・行政手続き)を徹底し、日本語力に応じた相談窓口を複線化することが有効です。また、技能実習修了後に特定技能や在留資格「介護」(介護福祉士取得が条件)への移行が可能なキャリアパスを入職時に共有すると、本人の長期就労への意欲が高まります。
- Q4.技能実習制度は2027年に育成就労制度に変わると聞きましたが、今から受け入れを始めても問題ありませんか?
- A
令和6年6月に成立した改正法により、技能実習制度は原則3年以内(2027年予定)に育成就労制度へ移行します。現在技能実習で受け入れを開始しても法的に問題はありませんが、育成就労制度では「本人意向による転籍」が一定条件下で認められるなど、制度の性格が変わります。今後の計画立案では、技能実習と特定技能の組み合わせや、育成就労を見据えた長期的なキャリア設計も視野に入れることをおすすめします。
- Q5.湘南国際アカデミーでは技能実習生の日本語・介護教育や資格取得支援はありますか?
- A
湘南国際アカデミーは登録支援機関として、外国人介護人材の日本語教育・介護技術講座・初任者研修・実務者研修・介護福祉士国家試験対策まで一貫したサポートを提供しています。技能実習修了後の特定技能への移行支援や、在留資格管理も行っており、2025年度の国家試験では支援を受けた外国人介護士の合格率71.2%を達成しました。詳しくはお問い合わせください。
まとめ
ベトナム人介護技能実習生の受け入れを成功させるために、制度理解・要件確認・適正なパートナー選定・現場設計・定着支援の要点を振り返ります。
受け入れの出発点は制度趣旨の理解です。技能移転という前提に立ち、実習計画に基づく育成と適正運用が不可欠です。制度趣旨を理解して設計することが、監査対応だけでなく現場の安全にも直結します。
次に、実習生側の日本語要件・職歴要件を書類だけでなく「現場で安全にコミュニケーションできる状態か」という観点で確認し、受け入れ側の指導員体制・同等処遇・労務管理・夜勤時の安全確保まで具体的に整えます。
最後に、配属後の言語・生活・育成支援をセットで設計します。技能実習修了後の特定技能移行→介護福祉士取得→在留資格「介護」というキャリアパスを早期に共有することで、本人の学習意欲と長期定着が同時に高まります。制度を使うこと自体ではなく、運用品質を上げることが受け入れ成功の最短ルートです。
特定技能人材紹介・登録支援機関のご案内は以下のページをご覧ください
湘南国際アカデミーでは初任者研修・実務者研修・介護福祉士受験対策の講師を務めるほか、受験対策テキストの執筆も担当。
介護技能実習評価試験評価者として外国人介護士の受け入れ支援、事業所向けスキルアップ研修のプロデュースなど、人材確保・育成・定着に向けた幅広い活動を展開している。


